【人材・組織開発の現場から】 小川 康氏 「投資評価の新潮流」

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弊社は、製品開発・新規事業や設備投資などの事業投資の評価に関するコンサルティング・システム導入・人材開発をしています。「そんなことできるのか」「数字の遊びではないか」「本当に役に立つのか」と言われながらも、もう17年続けてきました。

 

投資評価というと、NPV(純現在価値)などの財務的な評価が一般的と言われます。もちろん、NPVは今でもよく使われているのですが、近年少しずつその使われ方も変わってきているように感じます。本コラムでは、実際にNPVを使って投資評価に取り組む企業に見られる、3つの新しい動向をご紹介します。

 

 

1.個別ではなく全体(ポートフォリオ)へ

 個別の投資案件は精査されていても、事業全体でどうなるか、というのは意外と分析されていません。個別の投資案件については今から10年程度先まで考えられていても、多くの企業では、事業全体のことは中期経営計画(3年~5年)の先はよくわからない状況にあるのです。そこでニーズが高まっているのは、全体を俯瞰するポートフォリオ分析です。ポートフォリオ分析で興味深いのは、NPVよりも、売上がはるかに重視される傾向があることです。実際に経営者と議論をすると、NPVを軽視するわけではないが、企業の安定的な成長を確認するには、中長期的な売上予測を重視する傾向が見られます。

 

2.計算結果ではなく入力データへ

 NPVのような数値は、もっともらしく見えるものです。しかし、それも所詮誰かが想定した数字を積上げて計算されたものに過ぎないことが、多くの人に理解されるようになってきました。そのため、なぜこの数値になったのか、という議論を多く見かけるようになりました。以前は、エクセルのシートでビッシリとNPV計算と分析が行われていると、その時点で仕事が終わったかのようなことがあったものですが、計算や分析が議論のスタートに位置づけられるようになってきています。計算結果よりも入力データを議論すべき、というのは当たり前のように聞こえるかもしれませんが、そう簡単ではありません。組織的にそれを実行するためには、その事業に関する深い理解と財務に関する基本的な知識を要します。そのためには、人材の育成とSOP(標準業務手順書)の整備等が欠かせないのです。

 

3.静的分析ではなく動的分析(シミュレーション)へ

 予測が当たらない、というのは投資評価業務につきものの悩みです。評価をしている担当者も、随分と悩みながら数字を作っています。その際に、外れるとしたらどの程度なのか、といったリスクを示すために、シミュレーションが少しずつ活用されるようになってきています。What-If分析や、感度分析・リスク分析といった、いくつもの結果を想定したシミュレーションが新たな武器となりつつあるようです。

 

 

以上のような動向には、組織の各所に散らばっている情報や知見を集約しようという狙いがあるように思います。つまり、投資評価業務のあり方が、以前は数字作りが主眼であったことに対して、数字を媒体とした知恵集めが主眼になってきている、そんな新しい潮流を感じます。言いかえるならば、投資評価業務においては、数字を使いこなすことが普通になってきたと言えるでしょう。

 

 

 

 

Ac-ogawa-p.jpg小川 康(おがわ やすし)

インテグラート株式会社 代表取締役社長

 

東京大学工学部都市工学科卒、ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA(起業学並びにファイナンス専攻)、研究・技術計画学会会員、日本価値創造ERM学会会員、日本リアルオプション学会会員。

 

東京海上火災保険、米国留学、留学中の現地ベンチャー支援センター(SBDC)、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンを経て現職。新規事業立案支援、事業計画のバリュエーション手法、ポートフォリオマネジメント手法の研究開発・コンサルティングに従事。製薬会社の医薬品開発プロジェクト事業性評価及び事業性評価・ポートフォリオ評価業務導入支援、自動車メーカーの中古車事業戦略策定支援、大手総合商社の海外企業向け投資案件支援、など、新規事業・製品開発のコンサルティング経験を持つ。

主な著作・研究に、「ベンチャー企業事業計画の策定・分析手法」(共著、ベンチャーエンタープライズセンター、1999年2月)、「戦略経営コンセプトブック」(共著、東洋経済新報社、2002年12月)、「ハイリスクR&D投資の意思決定力を高めよ」(共著、早稲田ビジネススクールレビュー、2006年7月)、「オープン・ポートフォリオに基づく国内製薬企業のR&Dマネジメント」(共同、研究・技術計画学会第21回年次学術大会)、「組織の意思決定力を高める10のテクニック」 (共著、日経BP社Itproウェブサイト連載、2008年6月~10月)、「不確実性分析実践講座」(共著、ファーストプレス、2009年12月)等がある。

 

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