今から6年前、人と人、課と課、部と部をまたがる仕事の流れを可視化する「業務フローチャート」の新しい書き方(プロラボ・メソッド)を開発しました。業務改善の余地を発見するための業務フローチャートを、事務職の人たちがもっと簡単に書ける方法がないだろうかと考えたことがきっかけです。
工場の生産ラインでは、ベルトコンベアの上を物が流れ、人々が前工程から後工程へと仕事を分担しています。ホワイトカラーと呼ばれる事務職の人々も同じように、前工程から後工程へと仕事を分担しています。しかし、工場の生産ラインに比べると、事務職の職場ではこの「仕事の流れ」が見えにくくなっており、往々にして改善の余地が、人と人、課と課、部と部の仕事の流れのハザマに落ちています。したがって、その流れを簡単に可視化できるかどうかは、生産性向上のためにとても重要なことなのです。
フローチャートは、昔から仕事の流れ記録するために活用されてきましたが、新しいフローチャート(プロラボ・メソッド)は、従来のものと発想が正反対です。従来のフローチャートは、
・(管理者など)誰か中心となる人が、
・ 現場の人たちにヒアリングをして
・ 全体像を描き
・ それをブレークダウンして詳細化し
・ さらにその過程で現場の人たちに確認をとる・・・
という、全体像から詳細をつめていく書き方が一般的でした。
一方、新しいフローチャートは、
・現場の人たち自らが、
・ 自分たちが実際にやっている仕事を
・ つなぎ合わせていくことで
・ 徐々に仕事の流れの全体が見えてくる・・・
という、詳細を積上げて全体像を把握する書き方をします。
このフローチャートを、はじめて現場で働く人々に実際に利用していただいたのが、島根県のある企業でした。そこで私は、自分の価値観を変える印象的な光景をみることになりました。
外では雪が深々と降る島根県の冬の日、会議室では10人ほどの事務職の方々が、自分たちの仕事の流れをフローチャートに書き表しています。フローチャートから徐々に仕事の全体像が見え始めてくると、会議室では自然発生的にこんな会話が始まりました。
「この仕事って私がやっているのと同じような仕事だし、私が前段階でまとめてやりますね。」
「この資料は、昔は使っていたけど今は使っていないので、作らなくても大丈夫ですよ。」
もともとは仕事の流れを可視化することがテーマだったのですが、いつの間にかその先の改善へと自然に話が移っていったのです。しかも皆さん、とても楽しそうです。
「見えれば気がつき、気づけば動く」と私が実感した瞬間です。
コンサルタントから押し付けられた改善策を、あまり気乗りせずに「やらされていた」かつての自分の経験を思い出しながら、「人が動く」とはこういう事なのだ・・・と心が晴れわたるような清清しい思いで、みなさんの会話の様子を見守っていました。
コンサルタントとして単に改善策を提示するだけではなく、現場に気づきを与える【人材開発】請負人と、私自身を再定義するきっかけとなった瞬間でした。
松浦剛志(まつうら・たけし)
京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービスにてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。 2002年、人事と会計を中心とする経営管理のコンサルティングを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化しプロセス・ラボを創業。現在、2社の代表を務める。
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