【人材・組織開発の現場から】篠崎正芳氏 「日本企業に求められる人と組織のグローバル化 ~『心』と『実際の行動』に変化を起こす~」

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日本企業を取り巻く経済・ビジネス環境や雇用システムの問題を考えると、日本企業が競争の中で生き残り続けるためには、世界を視野に入れた経営を実行していくことが重要です。しかし、多くの日本企業において、「人と組織のグローバル化」は遅々として進んでいません。その多くの原因は、理想の組織像や欧米企業の組織や人材イメージの議論に終始し、それを頭で理解することに時間を費やし過ぎていることだと思います。それよりも、日本企業はまず、足もとの自社のグローバル組織の現状と特性を直視し正しく認識することが必須です。その上で、次にいきなり10年先ではなく、3年という"視界に入る"時間軸の中で実現したい「変化」を明確にし、それに向けて問題解決のための実効性高い行動を起こすことが重要になるのです。

 

 

もちろん日本企業の中にも、人と組織のグローバル化が進んでいる企業もあります。そういった企業(例:スミダコーポレーション)では、、そもそもグループ全体の社員に占める日本人の割合が少ない、あるいは、日本人の絶対数が少なく、海外拠点における日本人駐在員の数も自ずと少なくなります。その代わり、各地の拠点ではトップや幹部層のほとんどの役職に優秀な現地人材が配置されます。このような会社では、いわゆる「日本本社」という存在があまりクローズアップされることはなく、実際のビジネスや組織機能を軸に最適な組織構造が構築され、最適な人材が配置されることになります。さらに、全拠点を視野に入れた共通の企業文化を定義し浸透させ、共通の考え方で人材育成を行い、国籍を問わず全拠点の経営幹部が納得するガバナンス体制が整備されることになります。しかし、残念ながら、このような日本企業の絶対数はとても少ないのが実状です。

 

 

日本企業の大多数は、グローバル経営上の組織図を机の上に広げてみると、本社も国内外の関連会社も上層部の役職はほとんど「日本人」で占められているのが現状です。しかも、英語圏以外の新興国の拠点では社内の共通言語が「日本語」になっている会社が大変多いのも事実です。3年という時間軸の中で、現地人材の登用が劇的に進み、社内の公用語が英語に変わってしまうという荒治療ができる会社は、経営者の英断と覚悟が伴わない限りごくわずかと推察できます。このような状況の下で「人と組織のグローバル化」に向けて問題解決の方法を検討する時、一足飛びに欧米式を「吸収」することは現実的ではありません。限られた短い時間軸の中で着実に「変化」を起こしていかなければいけません。「頭での理解」に変化を起こすことだけで立ち止まるのではなく、「心」や「実際の行動」に変化を起こさなければ、時間の無駄なのです。

 

 

では、具体的にはどうしたらいいか。今、最優先しなければいけない取り組み課題は、本社を起点に現地人材とビジネスをする日本人、及び海外拠点に駐在して現地人材をマネージする日本人を対象に、まずは、現状の「日本人」「日本語」主体の組織構造が本来の機能を取り戻すことを目的とした実効性の高い研修を実施し、その後、現場で実変化が起きるよう継続的に仕掛けを施してフォローアップしていくことです。その中ではじめて、グローバル仕様の日本人の底上げと、今後の日本人リーダーの発掘、選別が計画的に実現でき、それが3年後に取り組み始める次の打ち手に繋がっていくのです。さもなければ、「現地人材が育たない。給料を理由にすぐ辞める。だから、やはり日本人が必要なのだ。」という話が、日本企業の海外拠点で神話のごとく永遠に語り継がれることになるのです。

 

 

 

Ac-shinozaki-p.jpg篠崎 正芳(しのざき まさよし)

株式会社J&G HRアドバイザリー 代表取締役社長

1963年生。(株)富士銀行、外務省在外公館派遣員(在豪州日本大使館)、全日本空輸(株)、日本能率協会コンサルティング(株)、マーサー・ヒューマン・リソースコンサルティング(株)(現マーサージャパン(株))取締役兼グローバル人事戦略コンサルティング代表などを経て、2007年より現職。

人事組織マネジメントのグローバル化・現地化を現場重視で支援する数少ない日本人グローバルコンサルタント。海外拠点における人事制度構築(7 Days Program)、企業文化浸透活動、海外赴任前後研修(実践的多文化マネジメントトレーニング)をはじめとする各種トレーニング、 アセスメント&コーチングなどを中心に活躍中。

日本国内および海外でのセミナー、講演、寄稿多数。 現在、SMBCコンサルティング発行「中国ビジネスクラブ」でコラムを連載中。

著作に『世界で成功するビジネスセンス』(単著、日本経済新聞出版社/2009年)、『中国進出企業の人材活用と人事戦略』(共著、JETRO/2005)、『実践Q&A 戦略人材マネジメント』 (共著、東洋経済/2000年)、『取締役イノベーション』」(共著、東洋経済/1999年)。米国ICF(International Coach Federation)認定コーチ。