2011年4月アーカイブ

モンテカルロシミュレーション、と聞くと難しそうですね。しかし、仕組みを理解すると、利益見込みの「確からしさ」(リスク)を見える化できる、簡単で便利なものです。一日でモンテカルロシミュレーション、トルネードチャート、What-If分析を理解し、意思決定まで実践する研修プログラムがありますので簡単にご紹介しましょう。

 

研修参加者に多く見られるのは、不動産や製品開発、資源開発やM&Aなどの事業投資の担当者です。稟議を上げる際の説明や議論に、モンテカルロシミュレーションを活用することを目的として研修が実施されています。

 

一日の研修の内、前半では、あいまいなアイデアを事業計画に落とし込みExcelで利益などを計算するまでの手順と、データの設定方法を説明します。特に、データの設定方法は重要な部分です。

 

モンテカルロシミュレーションが便利なのは、利益やNPV(価値を表す指標です)の「確からしさ」を確率で示すことにありますが、そのためには入力データの「確からしさ」を定義しなければなりません。つまり、入力データに確率の考え方を反映する必要があります。これは、10回に1回発生する場合、など定性的な言葉を確率に結び付けていく、簡単ですが大事な考え方です。この考え方を理解すれば、モンテカルロシミュレーションで計算される確率の意味を正しく理解できるようになります。ここで説明に手を抜いてしまうと、シミュレーションは単なる数字の遊びになってしまいます。

 

データの設定方法の解説を終えたら、モンテカルロシミュレーション、トルネードチャート(感度分析)、What-If分析の仕組みと意味を学びます。シミュレーションを行うためには、前提条件を詰めることが要求されます。シミュレーション自体には、何の魔法も無く、自分たちが入力したことが、見える化されているだけなのだ、と気付いてもらうことが大切です。ここまでで前半終了です。

 

後半は、短いケースを配布し、グループディスカッションを行います。ケースには、売上の見込みや費用の見込みについて、情報が記載されています。うまく行く場合や、工夫が可能な場合の情報も含まれています。一人一人がケースを読み込んで、モンテカルロシミュレーション・トルネードチャート・What-If分析を行えるようになると、いよいよ議論を始めます。

 

議論では、グループの中を更に2つに分け、稟議を上げる側(提案者)と、意思決定を行う側(承認者)に分かれます。提案者は、利益の見込みをモンテカルロシミュレーション・トルネードチャート・What-If分析を使って説明します。承認者は、利益の見込みの「確からしさ」を質問します。1時間半程度議論した後、各グループで結論を出します。

 

承認するグループもあれば、却下するグループもあり、更に、最終的な利益見込み額はグループ間で異なる結果になります。このようなグループ間の違いは、なぜ生じるのでしょうか。

 

同じ情報を受け取っても、人によって「確からしさ」の受け止め方は異なります。ある人は、この数字は堅い(つまり、確からしい)と受け止め、また別の人は、この数字は甘い(つまり、確からしくない)と受け止めることがあります。このようなときには、自分が考える「確からしさ」を伝え、妥当な解釈であるかを他のメンバーと議論することが、その組織にとって許容できる「確からしさ」の判断に役立ちます。モンテカルロシミュレーションやトルネードチャートは「確からしさ」を伝える、簡単な説明ツールとして役立つのです。

 

なお、研修の事前課題図書としてAdatの福澤英弘さんとの共著 「不確実性分析 実践講座」*を、ビジネスシミュレーションソフトにはインテグラートの「デシジョンシェア」(無料体験版)を使っています。


 

モンテカルロシミュレーションは、名前はよく知られているものの、活用方法が今一つ分かりにくいようです。NPVなど、利益の見込み計算は、多くの企業で行われていると思いますが、「確からしさ」の議論は十分でしょうか?「確からしさ」に対する検討を深めるためには、モンテカルロシミュレーションやトルネードチャートの活用をお勧めします。


*(同書の書評が、研究・技術計画学会の学会誌「The JournaI of Science PoIicy and Research Management  Vol.25, No.1 /2010」に掲載されました)



小川 康(おがわ やすし

インテグラート株式会社 代表取締役社長

 

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東京大学工学部都市工学科卒、ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA(起業学並びにファイナンス専攻)、研究・技術計画学会会員、日本価値創造ERM学会会員、日本リアルオプション学会会員。

 

東京海上火災保険、米国留学、留学中の現地ベンチャー支援センター(SBDC)、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンを経て現職。新規事業立案支援、事業計画のバリュエーション手法、ポートフォリオマネジメント手法の研究開発・コンサルティングに従事。製薬会社の医薬品開発プロジェクト事業性評価及び事業性評価・ポートフォリオ評価業務導入支援、自動車メーカーの中古車事業戦略策定支援、大手総合商社の海外企業向け投資案件支援、など、新規事業・製品開発のコンサルティング経験を持つ。

主な著作・研究に、「ベンチャー企業事業計画の策定・分析手法」(共著、ベンチャーエンタープライズセンター、1999年2月)、「戦略経営コンセプトブック」(共著、東洋経済新報社、2002年12月)、「ハイリスクR&D投資の意思決定力を高めよ」(共著、早稲田ビジネススクールレビュー、2006年7月)、「オープン・ポートフォリオに基づく国内製薬企業のR&Dマネジメント」(共同、研究・技術計画学会第21回年次学術大会)、「組織の意思決定力を高める10のテクニック」 (共著、日経BP社Itproウェブサイト連載、2008年6月~10月)、「不確実性分析実践講座」(共著、ファーストプレス、2009年12月)等がある。

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