人の想像力は本当に大したことがないと思います。塩野七生は、「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えているわけではない。多くの人は、見たいと思う現実しか見ていない」というカエサルの言葉を引用しましたが、私はそれに「人は経験しなければ事実であってもそれを理解できない。人の想像力には限界がある」ということを加えたいと思っています。

 

人と人とのコミュニケーションにおいて、何でこんなことが伝わらないのだろうかと思った経験を誰でも持っているかと思います。私自身もいつもそのモヤモヤしたものにフラストレーションを溜めていましたが、それは当然のことだったと受け止めなければならないのかもしれません。

 

私の卑近な例で言えば、1999年に日本のメーカーから、PRTMという日本に初めて進出した外資系の戦略コンサルファームに転職し、半年間日本にいるのは私だけ、という時期を過ごしました。その頃2000年の新春を迎えたのですが、当時まだビザの関係でアメリカにいたボスに、「日本では正月三箇日は休日である」と言ったのですが、「そんな法律は見たことがないし、どのカレンダーにも1月1日以外休日のマークがついていない」と一蹴されてしまいました。ほかの会社の事例を出しても全然だめ。「うちの会社は大企業ではないので、大企業のルールを適用することはできない、休みたければ休暇を取れば良いだろう」とのことで、その無理解に憤慨したものです。ところが、2000年にそのボスが日本で生活を始めると、事態は一変。まず12月30日に出勤してくることについて、「何故そんな必要があるのか?クライアントは休みに入っているではないか」と言うのです。


この経験は私にとって、まさに目から鱗が落ちる思いでした。常に対象とする人たちが自分と同じコンテクストで生きているわけではないし、そう考えること自体が傲慢なのではないかと気づいたのです。つまり、相手に想像力を期待してコミュニケーションを取ってはいけないし、ある意味それは傲慢だ、ということを。相手はこれまでどのような経験を積んできているのか、どのようなことが常識になっているのか、また大事だと思っていることは何のかを考えないで相手とコミュニケーションをとることはできません。このような経験からの気づきが、今のコンサルタントとしてのバックボーンになっており、またコミュニケーションについてのスタンスとなっています。

 

今の世の中、どんな素晴らしい考え方も相手に伝えられなければ価値のあるものにはならないものです。コミュニケーションの大事さ、そしてその難しさを痛感した私としては、少しでも多くの方々にそれを理解してもらえたらと思っています。




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小野寺 寛(おのでら ひろし)
モニターグループ バイスプレジデント

慶応義塾大学経済学部

慶應義塾大学大学院経営管理研究科終了(MBA)

同在学中にペンシルバニア大学経営大学院ウォートンスクールに交換留学

NEC、PRTMマネジメント・コンサルタンツ日本代表を経てモニターグループに参画

早稲田大学客員助教授(2005年~2007年)





ほんとうに使える論理思考の技術
木田 知廣
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研修の現場で、「あちゃー」と思うことってありますよね?


私の場合、論理思考の受講生が勘違いしちゃって、なんでもかんでもロジックを押し通そうとする「イタい」姿を見た時に、とくにそう感じます。会議でたまたま同席した際、「今の発言は『イシュー』をはずしてますよね」なんてしたり顔で指摘する姿を見ると、「だからそうじゃないだろ~」と、言いたくなります。もちろん、実際にそんなことができるはずはないのですが...。


という時に、コッソリと手渡したい手紙のようなつもりで書いたのが、新著、「ほんとうに使える論理思考の技術」です。


テーマは、「ビジネスは、論理でツカんで、心理で動かす」。

ロジックにこだわる人は、ともすれば周りに壁をつくって自分の殻に閉じこもりがちですが、それをぶち破ってリーダーとして周りを巻き込む方法論をまとめました。

 ・どんな相手も思わずホンネを漏らしてしまう「コロンボ・テクニック」

 ・職場で苦手な「あの人」にもサラッと頼み事ができる「ナンパ話法」

 ・停滞した組織に喝!を入れ、「戦うチーム」に変貌させる「PEMAの法則」

など、ほんとうに明日からでも使える方法論はもとより、人の気持ちを動かすための方法論を「CRICSS」というフレームワークでまとめています。コミットメントや、社内政治の使い方などの頭文字を取ったもので、説明すると長くなるのでここでは割愛しますが、もしご興味があれば、1分間の動画と診断テストを掲載しましたので、下記をご覧下さい。

「ほんとうに使える論理思考の技術」公式ページ


「激動の時代」なんて言葉はもはや言い古された感がありますが、震災なども含めて今の状況は、人々の気持ちを糾合する真のリーダーが求められていると感じます。一人でも多くの人に、「論理でツカんで、心理で動かす」というエッセンスが届くことを祈念しています。




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木田知廣(きだ ともひろ)  シンメトリー・ジャパン株式会社代表

筑波大学卒業後、米国系人事コンサルティングファーム、ワトソンワイアットにてコンサルティングをおこない、成果主義人事制度の導入にて活躍。1999年、人事制度という枠組みを超えた人材マネジメントの知見を求めて、EU統合のまっただ中にある欧州へと旅立つ。ロンドン・ビジネススクールにてMBA取得。帰国後は、社会人向けMBAスクールのグロービスにて「グロービス経営大学院」の立ち上げをゼロからリードし、苦闘の末に前身的なプログラム、GDBAを 2003年4月に成功裡に開校する。2006年、経営学の分野で有効性が実証された教育手法を使い、「情報の非対称性」を解消することをミッションとして「シンメトリー・ジャパン株式会社」を立ち上げる。




モンテカルロシミュレーション、と聞くと難しそうですね。しかし、仕組みを理解すると、利益見込みの「確からしさ」(リスク)を見える化できる、簡単で便利なものです。一日でモンテカルロシミュレーション、トルネードチャート、What-If分析を理解し、意思決定まで実践する研修プログラムがありますので簡単にご紹介しましょう。

 

研修参加者に多く見られるのは、不動産や製品開発、資源開発やM&Aなどの事業投資の担当者です。稟議を上げる際の説明や議論に、モンテカルロシミュレーションを活用することを目的として研修が実施されています。

 

一日の研修の内、前半では、あいまいなアイデアを事業計画に落とし込みExcelで利益などを計算するまでの手順と、データの設定方法を説明します。特に、データの設定方法は重要な部分です。

 

モンテカルロシミュレーションが便利なのは、利益やNPV(価値を表す指標です)の「確からしさ」を確率で示すことにありますが、そのためには入力データの「確からしさ」を定義しなければなりません。つまり、入力データに確率の考え方を反映する必要があります。これは、10回に1回発生する場合、など定性的な言葉を確率に結び付けていく、簡単ですが大事な考え方です。この考え方を理解すれば、モンテカルロシミュレーションで計算される確率の意味を正しく理解できるようになります。ここで説明に手を抜いてしまうと、シミュレーションは単なる数字の遊びになってしまいます。

 

データの設定方法の解説を終えたら、モンテカルロシミュレーション、トルネードチャート(感度分析)、What-If分析の仕組みと意味を学びます。シミュレーションを行うためには、前提条件を詰めることが要求されます。シミュレーション自体には、何の魔法も無く、自分たちが入力したことが、見える化されているだけなのだ、と気付いてもらうことが大切です。ここまでで前半終了です。

 

後半は、短いケースを配布し、グループディスカッションを行います。ケースには、売上の見込みや費用の見込みについて、情報が記載されています。うまく行く場合や、工夫が可能な場合の情報も含まれています。一人一人がケースを読み込んで、モンテカルロシミュレーション・トルネードチャート・What-If分析を行えるようになると、いよいよ議論を始めます。

 

議論では、グループの中を更に2つに分け、稟議を上げる側(提案者)と、意思決定を行う側(承認者)に分かれます。提案者は、利益の見込みをモンテカルロシミュレーション・トルネードチャート・What-If分析を使って説明します。承認者は、利益の見込みの「確からしさ」を質問します。1時間半程度議論した後、各グループで結論を出します。

 

承認するグループもあれば、却下するグループもあり、更に、最終的な利益見込み額はグループ間で異なる結果になります。このようなグループ間の違いは、なぜ生じるのでしょうか。

 

同じ情報を受け取っても、人によって「確からしさ」の受け止め方は異なります。ある人は、この数字は堅い(つまり、確からしい)と受け止め、また別の人は、この数字は甘い(つまり、確からしくない)と受け止めることがあります。このようなときには、自分が考える「確からしさ」を伝え、妥当な解釈であるかを他のメンバーと議論することが、その組織にとって許容できる「確からしさ」の判断に役立ちます。モンテカルロシミュレーションやトルネードチャートは「確からしさ」を伝える、簡単な説明ツールとして役立つのです。

 

なお、研修の事前課題図書としてAdatの福澤英弘さんとの共著 「不確実性分析 実践講座」*を、ビジネスシミュレーションソフトにはインテグラートの「デシジョンシェア」(無料体験版)を使っています。


 

モンテカルロシミュレーションは、名前はよく知られているものの、活用方法が今一つ分かりにくいようです。NPVなど、利益の見込み計算は、多くの企業で行われていると思いますが、「確からしさ」の議論は十分でしょうか?「確からしさ」に対する検討を深めるためには、モンテカルロシミュレーションやトルネードチャートの活用をお勧めします。


*(同書の書評が、研究・技術計画学会の学会誌「The JournaI of Science PoIicy and Research Management  Vol.25, No.1 /2010」に掲載されました)



小川 康(おがわ やすし

インテグラート株式会社 代表取締役社長

 

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東京大学工学部都市工学科卒、ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA(起業学並びにファイナンス専攻)、研究・技術計画学会会員、日本価値創造ERM学会会員、日本リアルオプション学会会員。

 

東京海上火災保険、米国留学、留学中の現地ベンチャー支援センター(SBDC)、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンを経て現職。新規事業立案支援、事業計画のバリュエーション手法、ポートフォリオマネジメント手法の研究開発・コンサルティングに従事。製薬会社の医薬品開発プロジェクト事業性評価及び事業性評価・ポートフォリオ評価業務導入支援、自動車メーカーの中古車事業戦略策定支援、大手総合商社の海外企業向け投資案件支援、など、新規事業・製品開発のコンサルティング経験を持つ。

主な著作・研究に、「ベンチャー企業事業計画の策定・分析手法」(共著、ベンチャーエンタープライズセンター、1999年2月)、「戦略経営コンセプトブック」(共著、東洋経済新報社、2002年12月)、「ハイリスクR&D投資の意思決定力を高めよ」(共著、早稲田ビジネススクールレビュー、2006年7月)、「オープン・ポートフォリオに基づく国内製薬企業のR&Dマネジメント」(共同、研究・技術計画学会第21回年次学術大会)、「組織の意思決定力を高める10のテクニック」 (共著、日経BP社Itproウェブサイト連載、2008年6月~10月)、「不確実性分析実践講座」(共著、ファーストプレス、2009年12月)等がある。

CDムック 「やり直し英語」から始める 「ビジネス英語」3か月トレーニング (語学シリーズ)
竹村 和浩
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急がば、回れ!目からウロコ!の英語研修の方法。

 2月11日発売の「やり直し英語から始める、ビジネス英語3ヶ月トレーニング」は、私のライフワークである、日本人にあった英語習得法の研究から生まれた一冊です。

 

テーマは、「発音」「ロジック」「言い回し」です。

 そもそも、日本人はなぜ、英語ができないのか?

これは、単なるイメージではありません。すでに有名となったTOEFLでの国別平均点が示すまでもなく、英語のパフォーマンスは世界的にみても低い。その一番の原因を「正確な英語の音の習得」に帰結し、それによって、日本人の音声認識力、「聴く」「話す」の力を最大限に高めることを目的にしています。

 

さらに文法ではなく、いわば英語以前の世界共通語ともいえる、「ロジック」の構築によって、「コミュニケーション力」を短期間に高め、最後に、仕事で使う英語表現の習得を目指す内容となっています。

 

発音が重要な理由

「発音など気にする必要はない」とは多くの英語教育者ですら唱えている言説です。しかしながら、円滑な音声言語としての英語を使いこなすうえで、何が一番大事な学習要素なのか?それは、実のところ、「発音」つまりは、正確な英語の音の習得に起因しているという事実を多くの教育者が見落としています。つまり、日本人にとってもっとも難しい分野の一つでもある、英語の発音の矯正。ここにこそ、英語習得の突破口が存在していたということなのです。MBA社内派遣留学生が直面するのは、この「音」の壁であり、それをクリアーにするのも、この「音」すなわち、英語発音のトレーニングなのです。まさに目からウロコと、この研修参加者がアンケートで異口同音に高く評価する理由がここにあります。

 

これは、実際の研修プログラムに基づいた書籍であり、CDによる独習も可能になるよう設計してあります。3ヶ月、90日間をめどに、とりわけ新人研修をイメージして、英語への心理的なバリアーをはずすことから始め、さらには、英語の音声認識力を高めることで、学校で学んだ英語を使える英語に変換していく過程をプログラム化しています。

 

文法とロジックの関係

文法は、英語習得には欠かす事ができない要素です。本書では、ロジックと文法の関係についても解説をしています。文法grammarとは、ギリシャ語の語源からも、「書く」ことに由来しており、それに対してロジックlogicは、「話す」ことと密接な繋がりがあります。自在に英語で話すためには、実は、このロジックの習得が欠かせないのです。それによって発音による音声認識の向上と、さらにはロジカルな構成によるコミュニケーション能力の向上が可能になります。例え多少拙い英語であったとしても、ロジカルであれば、ビジネスでは十分通用します。そのための語彙と文法は、学校英語で習得済みだからです。この学校英語を最大限に使えるものに変える要素が、「発音」であり「ロジック」だということなのです。最後は、ビジネス独特の言い回しのトレーニングで仕上げとなっています。


単語・読み書き・文法そしてTOEIC等の勉強をすすめてもなぜ、英語が使えないのか?その原因と克服法を、「発音」「ロジック」「言い回し」の3点に絞り、英語力と学びのモチベーションを高め、かつ効果的に英語を習得する方法を記した一冊です。これまでの英語研修の成果を集大成した自信作です。


小学校英語から始めるグローバル人材育成の仕組み作りや、国際認証を使ったこれからのグローバル人材育成についても提言しています。


発音という一番難しい学習分野にチャレンジするからこそ、短期間で最大限の成果を得ることが可能になるのです。英語学習のモチベーションUPと、やり直し英語から、ビジネス英語への橋渡しとして拙著が少しでもお役に立てれば大変幸いです。



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竹村 和浩(たけむら かずひろ)

TLL言語研究所代表

立教大学文学部英米文学科卒。東京都立高校英語科教諭、公文教育研究会・総合企画室・海外事業部担当を経て、TLL言語研究所設立。

ピアソン桐原顧問(Business & Strategy Advisor)、日経ウィークリー特別講師、アルク英語講師、英語発音矯正士。

著書として他に、「図解入門ビジネス 中学英語の基本と仕組みがよ~くわかる本」(秀和システム)、「4コマ漫画で学ぶ英会話ウルトラ表現」(PHP研究所)、「図解 英語脳のつくり方」(PHP研究所)、「トータル・イングリッシュ」(大阪大学出版局)、「英字新聞 日経ウィークリー活用法」(大学教育出版)などがある。

2007年に出版した、「ビジネススクールで身につける会計力と戦略思考力」(日経ビジネス人文庫)の姉妹本として、ビジネススクールの2大科目のもう1つであるファイナンスをテーマに、「ビジネススクールで身につけるファイナンスと事業数値化力」(同)を執筆しました。

 

ファイナンスとは、「投資(Investment)と資金調達(Financing)の両者を定量的に評価し、最適な意思決定をおこなっていくためのツール」、事業数値化力とは、「将来の事業を構想し、具体的な数値に落とし込む力」と定義しています。

新規事業、海外進出、企業買収などといった新たな取り組みだけでなく、製造の自動化、直販比率の向上、SCMの推進、水平分業モデルへのシフトなどなど、あらゆる事業の数値化のためのツールは、ファイナンスが提供するものです。

小難しく捉えられがちなファイナンス理論と、事業計画での数値化の難しさを有機的に結びつけながら、両者の理解の促進を図ることを狙いとしています。

 

少々大げさかもしれませんが、

「日本のファイナンス力を高めるために、私が提供できるコンテンツはいったい何か?」

と問いかけ、至った結論が本書の内容であり、構成です。一見難解なファイナンス理論を分かりやすく解説するために、前著以上にインタラクティブ形式で、書きました。

長い間ファイナンスを教えていると、どこの説明でどんなつまずき方をするのかや、各学習事項に対して学生がどんなことを疑問に思うのかが、おおよそつかめてきます。

私が実際に教室の場で出会った31FAQとその答えを、インタラクティブ形式で解決していく構成を取っています。31FAQは、すでにamazon.comの書籍紹介ページに出ておりますので、ご参照ください。

 

 本書をきっかけに、多くの読者がファイナンスの面白さと重要さを認識され、ファイナンス分野を深く掘り下げていく機会となれば、筆者としてこれ以上の喜びはありません。

また、本文で触れるリスクとリターンの関係などは、私たち自身の資産運用ひいては人生観にまでも発展できる重要な概念です。身の回りにある事象を、リスクとリターンの関係から一度再考する機会の一助ともなるかもしれません。




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1989年應義塾大学理工学部管理工学科卒業。米国ニューヨーク州ロチェスター大学経営学修士(MBA)。 株式会社富士銀行、バークレイズ・キャピ

タル証券、ベンチャーキャピタルを経て、2003年株式会社オオツ・インターナシルを設立。現在は経営戦略(専門は金融、教育、ソフトウェア)や会計・財務に関わるコンサルティングに従事。早稲田大学大学院商学研究科ビジネススクール(MBA)非常勤講師、グロービス・マネジメント・スクール講師。また、国内大手メーカー、金融機関、流通、サービス、外資系企業などに対して、アカウンティング(財務会計、管理会計)、コーポレート・ファイナンスのマネジメント教育講師を多数務める。

最近の日本企業は海外にやられっぱなし、という話題を耳にすることが多くなりました。躍進する海外企業を横目に、日本企業の経営者の誰もが、わが社もイノベーションをもっと起こせないものかと考えていることでしょう。


話は少しそれますが、企業研修や大学の講義でケーススタディなどをやったとき、「それで正解は何なのですか?」と聞かれることがよくあります。正解などありませんよというと、不満足な表情をする人も少なくありません。経営問題に正解はないでしょうと言うんですが、どうも気持ちが悪いようです。私は、これは学校教育に一因があるのではないかと考えています。子供は「?」で学校に入り、「.」で卒業していく、という言葉があります。たとえば、3+4=?という問題は出しても、7=?という問題は、まずないでしょう。アインシュタインは、学生に2週連続して同じテストを与えました。生徒がこれは先週と同じ問題ですと言ったら、アインシュタインはこう答えたそうです。「その通り、しかし今回は答えが違う!」。


このように、多くの教育は、いかに効率的に正解を導くかという能力を鍛えることに重点を置いています。もちろんこれも大切な能力ですが、情報化社会で日々新しいアイデアやビジネスが創造される現代においては、すでにわかっている正解を導くだけでは不十分です。

 

ギルフォードは、知能のモデルを研究する中で、ただひとつの正解を導くタイプの「収束的思考」と、多くの解決策を発想するタイプの「発散的思考」を区別しました。その上で、発散的思考力が創造性に関連する力であると主張しました。発散的思考は、慣れていない人にとっては、時に大変苦痛を伴うものです。その過程では、問題を解決するための情報は不十分であり、問題が定義されないときさえあるからです。一般に、あいまいな状況は不安を招き、人はそれを避けようとします。しかし発散的思考は、そういった状況でも、分かっている範囲で仮説をたて、推理し、コミュニケーションできる能力と勇気を必要とします。

 

発散的思考を組織として醸成するためには、経営者や管理職の理解も必要です。以前、ある製造業の研究開発部門の人たち向けに製品戦略の研修をしたとき、冒頭で担当役員の方が、我々はもっと創造的になりイノベーションを創出しなくてはならない、と挨拶しました。研修中にアイデア出しの課題を与えたのですが、ここで担当の管理職の方がこう言ったのです。「先生、あまり酔狂なアイデアを出してもらったら、こっちがびっくりしてしまうので、ほどほどにしといてくださいね」。これは、日本だけではないようで、クリステンセンらの著書「イノベーションの解」で次のような一節があります。

「アイデアを選別し、資金を勝ち取れる計画にパッケージするプロセスは、アイデアを、過去に承認を得て成功したものに似せるようになる」

さらに、現場から出たアイデアが事業に形成される過程で、中間管理職がどんどんそれを無難なものにしていくと言っています。

 

Google の"20%ルール"や、3Mの"15%ルール"が、イノベーションを起こす組織としてしばしば引き合いに出されますが、これを単にまねてもそのとおりにはなりません。創造的になるための発散的思考の育成と、それを受容するための経営者や管理者の理解が必要なのです。イノベーションが求められる今こそ、発散的思考の醸成に注目するときなのではないでしょうか?

 



Ac-kitahara2-p.jpg北原 康富(きたはら やすとみ)

インテグラート・リサーチ株式会社代表取締役、早稲田大学商学研究科非常勤講師。

東京理科大学理学部卒業、早稲田大学後期博士課程位取得満期退学、博士(学術)。

日米のコンピュータメーカにてシステムエンジニア及びマネジメントコンサルタントとして活動後、日本インテグラート株式会社を設立。創業以来、新規事業や開発プロジェクトに対する戦略計画や意思決定に取組み、これらを支援するソフトウェアおよび方法論の開発を行う。プロジェクトの事業価値評価、事業ポートフォリオマネジメント、戦略意思決定、イノベーション創出の分野で、教育およびコンサルティング活動を行っている。

ビジネススクールで身につける仮説思考と分析力―ポケットMBA〈5〉 (日経ビジネス人文庫) (日経ビジネス人文庫 ブルー う 5-1 ポケットMBA 5)
生方 正也
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「仮説」や「分析」という言葉は、当たり前のように使われています。しかし、いい仮説や分析と悪い仮説や分析の区別はつくが、どうすれば「仮説」や「分析」がよいものになるのかはよくわからない、というのが現状ではないでしょうか。「この仮説はいまいちだな」「こんな分析じゃ使えない」と部下に言うだけで終わらない(あるいは、上司に言われない)ために、「じゃあ、どうすればよい仮説を立てられるのか、よい分析ができるのか」のコツをまとめたのが本書です。

 

本書では、いくつか工夫をしています。考え方を理解する場合、イメージが大切です。具体例がなければイメージできません。本書はほとんどの章で、事例や演習をあげ、その解説を中心に進められていきます。

 

仮説を立案する場合、そのコツは実際の成功事例を見るとよくわかります。そこで、セブン-イレブン、ヤマト運輸、ファーストリテイリングなどの日本を代表する企業、そしてサントリーの大ヒット商品「伊右衛門」など、イメージしやすいものを紹介しています。これらの成功例を丁寧に見ると、「使える」仮説を立てるために驚くほど共通した思考プロセスをたどっていることがわかります。こうした思考パターンを解説していきます。

 

また、分析に関しては、なかなか実例でよい分析を紹介することができません。そこで、演習を用いてそのコツを紹介しています。その紹介の仕方も、よい例だけ、悪い例だけを載せるのではありません。赤ペン先生のように、悪い例に対してはどこが悪いかを添削しながら、よい例はどこを参考にすべきなのかがわかるように示しています。

 

仮説や分析は、その後の行動に大きな影響を及ぼします。ぼんやりとした仮説を立てたり、漠然と分析をしているだけでは、その後の行動も焦点がぼやけて、結局あまり意味のないものになりがちです。単に思考力アップを目指すだけでなく、その先にある行動の精度を高めるためにも、本書をお役立ていただければ幸いです。

 

 

 

Ac-ubukata-a.jpg 生方 正也(うぶかた まさや)

 東京大学文学部卒業。日産自動車を経てウイリアム・エム・マーサー(現マーサー・ジャパン)にて、人事制度改革、組織変革等のコンサルティングに従事。その後グロービスにて、人材開発・人材評価プログラム及び診断テストの開発を手がける。現在はフリーの人材開発コンサルタントとして人材開発体系の設計、評価制度のコンサルティングに加え、経営人材のアセスメントを行う。同時に、論理思考、分析力、問題解決、ファシリテーション等の指導を行っている。著書に「シナリオ構想力実践講座」(ファーストプレス、2008年)、共著に「ロジカル会話問題集」(朝日新聞出版、2008年)がある。現在、雑誌「Think!」(東洋経済新報社)に、「受け手を理解・納得させるコミュニケーションの設計技法」連載中。

 

 

 

今から15年ほど前、ハーバード大学のMBA入学を控えていた頃、あるイギリス人OBから言われたことがあります。

 

ビジネススクールで勉強したことは、卒業後半年で全部忘れる。

 

幸か不幸か、MBA修了後、この言葉は現実となりました。振り返ってみると、中・高・大を通して、記憶した「知識」の多くは、何事もなかったように忘れ去っています。それでも、それぞれの場所で得た「経験」が無駄になっているとは思いません。

 

そもそも「学ぶ」とはどういうことでしょうか。

 

英語には「スタディ(study)」と「ラーン(learn)」があります。ざっと言えば、スタディは「知識」の獲得で、ラーンは知識も含めた体系的な「技能」の習得です。たとえば英語を学ぶ時。「知識獲得」によって、○×式や択一式の試験であれば結果を出すことができますが、「技能習得」がなければ実践で使うことはできません。

 

私は20歳の頃、1年間米国に交換留学をしました。キャンパスの寮ではひとつ屋根の下、50人の米国人学生と共同生活です。ルームメートは3人、寝室には2段ベッドが所狭しと並んでいます。車の運転を覚えたのも、初めてジムに行ったのも、こういう「空気」の中の出来事でした。

 

10年後、ハーバード大学のMBAプログラムで2年間、80人のクラスメートと討論を行いました。米国人であっても気後れすると言われる「白熱教室」(NHKで放送されましたね)さながらの授業。それがそれほど苦にならなかったのは、20歳の頃に吸った「空気」がある種の免疫になっていたからだと思います。

 

自分の「英語学習」の軌跡を考えると、教科書も読んだし、参考書も読んだ。テープも聴いたし、受験勉強もした。ここまでは誰でもがすること。ろくに英語もしゃべれないのに交換留学に応募して、「アニマルハウス」と揶揄される学生寮に押しかけ、「アメリカ」を体験した。これらは自分で選んでやったこと。

 

何かを習得するために、欠かせないものが3つあります。必要性と自主性と効率性。たとえば英語が必要になれば、好まなくともやらされます。良質なフレームワークを活用すれば効率が手に入ります。しかし、自主性がなければ英語も何も身につきません。

 

学ぶということは、知識の獲得よりも、技能の習得よりもまず、スポンジのように全身で新しい「空気」を感じ取ることから始まるのではないでしょうか。そしてその一歩は常に、自分の意思から始まります。

 

 

 

 

Ac-aono2-p.jpg青野 仲達 (あおの・ちゅうたつ)

 

ビジネス・ブレークスルー大学グローバル経営学科教授。ブルーフィールド英語習得研究所主宰。早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、アメリカン・エキスプレスを経て、ハーバード大学経営大学院(Harvard Business School)にてMBAを取得。イングリッシュタウンの創設、マイクロソフトの新規事業立ち上げに携わり、2004年に株式会社GABAGabaマンツーマン英会話)を設立。代表取締役社長として、2006年に東証マザーズ上場。現在は、これまでのキャリアを生かして世界に通用する「英語のフレームワーク」を開発、大学の授業や企業の研修を通じて、実践的な英語習得法を指導している。著書に『MBA式英語習得法』(PHP研究所)がある。

 

 

論理表現力
高杉 尚孝
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皆さん今日は、高杉事務所の高杉です。ロジカル・シンキングやライティングが単なる流行りに終わることなく、真に業務効率の向上につながるスキルとして根づいてもらいたいと私は願っています。その思いから、人材育成の場で培ったノウハウを本書「論理表現力」(日本経済新聞出版社刊)にて公開する決心をいたしました。

 

早いもので、当方、もう二十年近く企業人材育成のお手伝いをしています。特に、日本のビジネスパーソンの弱点とも言える、論理表現力、発表力、精神タフネス、企業財務の知識、ビジネス英語力を中心に、深層心理や言語文化的な視点を取り入れながら、パソコンで言えばOSレベルの「脳力」開発に従事してきました。

 

思えばその間、マッキンゼー社内で培われた「ピラミッド構造」に関する翻訳書を皮切りに、ミーシー的整理方法や分析フレームワークを紹介した、数多くのロジカル・シンキングやライティングに関する指南書が出版されました。同時期、企業研修においても「ロジカル・シンキング」はビジネスパーソンに必須のツールとして広く認知されるに至りました。

 

しかし残念なことに、能力開発の現場でしばし直面するのは、ピラミッド構造やミーシー的個別フレームワークを知識として持っているものの、実務上の問題解決に必ずしも効果的に使えないという現実です。原因はこれらのツールを使いこなすための前提となる、根本的な思考と表現の要素技術の欠如にあると私は痛感するに至りました。さらには、個別ツールが位置づけられる俯瞰的フレームワークの欠如もあります。

 

本書「論理表現力」は、ロジカル・シンキングを実務に活かせるスキルとして習得できる様に、メッセージの種類、テーマや暗黙の命題の概念、論証法、明瞭表現、結論付け、要約化、抽象化など思考表現の要素技術を数多く取り上げています。また俯瞰的なフレームとして、TH法による問題発見と課題設定やSCQOR法によるストーリー展開を解説しています。

 

御社人材育成に本書をぜひご活用下さい。

 

 

    Ac-takasugi-p.jpg高杉 尚孝(たかすぎ ひさたか)

高杉尚孝事務所代表、筑波大学大学院客員教授。

慶應義塾大学経済学部卒、ペンシルバニア大学ウォートンMBA。ニューヨーク証券取引所認定スーパーバイザー・財務アナリスト。アルバート・エリス研究所認定スーパーバイザー・心理セラピスト、同研究所準フェロー。モービル、マッキンゼー、JPモルガンなどに勤務の後、97年に高杉尚孝事務所を設立。以来、論理思考、企業財務理論、メンタルタフネスなどの分野にて、企業研修、日経ビジネススクール、グロービスなどの講師として活躍。著書に「実践・問題解決のセオリー」日経新聞出版、「実践・プレッシャー管理のセオリー」NHK出版、「実践・交渉のセオリー」NHK出版、「論理的思考と交渉のスキル」光文社新書など。NHK教育TV「英語ビジネスワールド」9902年講師。

 

グローバル・イノベーション 日本を変える3つの革命
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6月4日に朝日新聞出版より、「グローバル・イノベーション ~日本を変える3つの革命~」という題の本を出版しました。前作「グローバル・マインド」(ダイヤモンド社)と同じく、一字一句全部自分で書き上げました。私はベタープレイスという電気自動車用の充電インフラサービスの事業に携わっていますが、ちょうど、現在運行中の電気自動車タクシープロジェクトの立ち上げの時期と重なっていたので、仕事の合間を縫ってもほとんど時間がとれず、結局数回のヨーロッパ出張の往復のフライトとゴールデンウィーク中に日夜を徹して書き上げました。

 

この本の主題は、世界的に見てもダントツの優秀さを誇る日本企業の「現場」を企業、国家のグローバル競争力に結びつけるにはどうすればよいかということです。そして、皮肉なことに、これには「現場至上主義」の考え方では対応できない点を説いています。

 

拙著では、まず「ビジネスモデル」と「ガバナンス」の分野での根本的な変革を論じています。両方とも新しい「仕組み」の議論であるので、現場の積み重ねの発想では生まれてきません。これは、現場にすべての答えがあると信奉する人たちからは、「地動説」は絶対に出てこないのと同じです。何故なら、自分の現場感覚では太陽や月は自分を中心に回っているとしか見えないからです。

 

詳細なポイントに関しては是非拙著をお読みいただきたいのですが、ビジネスモデルの変革では、デジタル化の潮流の中でグローバルに大転換している「ものづくり」のダイナミクスと日本の企業、業界構造の相性の悪さ、また、顧客のトータルな「ユーザー・エクスペリエンス」を制した企業の強さなどを論じています。私の本業である電気自動車を例に出し、自動車産業の将来図にも触れています。

 

ガバナンスの変革では、日本人にとっては、国家、企業、個人レベルでガバナンスの選択肢が少なく、結果的に現在の「レジーム」に危機感が乏しくなる循環を述べています。そして日本産業のグローバル競争力の向上には、企業ガバナンスに競争原理を持ち込むことによる業界レベルでの最適化の必要を説いています。

 

そして、最後にリーダーシップの変革を唱えています。日本の危機は「現場」にあるのではなく、リーダーにあると強く感じています。日本がこれから必要とするリーダーの持つべき能力として、「多様性から活力を生み出す力」「全体観を持ち、問題自体を定義する力」「グローバルな仕組みの中で、日本の繁栄を図る力」を論じています。

 

是非、お読みいただければ光栄です。

 

 

 

藤井さん.jpg藤井清孝(ふじい・きよたか)

ベタープレイス・ジャパン 代表取締役社長兼アジアパシフィック代表 代表

 

81年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。86年ハーバード大学経営大学院(MBA)卒業。同年、ファースト・ボストン投資銀行ニューヨーク本社のM&Aグループに勤務後、40歳でケイデンス・デザイン・システムズ日本法人社長就任。2000年SAPジャパン代表取締役社長就任。2006年ルイ・ヴィトン・ジャパンカンパニーCEO、LVJグループ代表取締役社長就任。2008年、現職に就任。ベタープレイス社は2007年にベンチャー・キャピタルより2億ドルの出資を受け米国カリフォルニア州で設立された、電気自動車用充電インフラ提供ビジネスの先駆者的企業。すでに欧州、米国、オーストラリアで、同社によるインフラ構築予定が発表されている。

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