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プロフェッショナルの横顔

 

西山 茂 氏

にしやま しげる

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第2回 西山 茂 氏

心理的ハードルを下げ、受講者の興味を引き出す

 西山氏はこれまで、会計および財務の分野で 20 年以上も実務をこなしてきた、まさに「会計・財務」のベテランである。その彼が、教育・研修ビジネスに携わり始めたのが 1992 年。ある民間のビジネススクールにマネジメント講座の講師として招かれたことが、すべての始まりだった。

 それまでは他人の前で話す機会はそれほど多くはなかったが、西山氏は持ち前の好奇心から「いい機会だから一度やってみよう」と引き受けたという。そのときは、まさかそのまま「講師」という仕事を 15 年以上も続けることになろうとは、そしてその後早稲田大学のビジネススクールで教鞭をとることになろうとは全く想像もしていなかった、と本人も振り返る。誘われて好奇心から始めた1つの仕事は、西山氏本人も気付かなかった彼の新たな才能を開花させ、そのまま彼を会計教育の第一線へ送り出すことになったのである。

教え、また学ぶ

 西山氏は、講師という仕事を始めてからすぐに、その楽しさに気付かされたようだ。「教えることによって、受講者が会計に興味を持ち、面白いと思ってくれることが何より嬉しい」と言う。そして西山氏は、「教えることによって、逆に自分が学べることも多い」とも言っている。例えば、講義の準備段階において、自分の知識を再確認できること、また、実際の講義におけるディスカッションや質疑応答の中で「受講者が持つ問題意識」を聞くことが、一般の人が会計をどう捉え、どのようなイメージを持っているのかを知るよい機会にもなり、新たな視点や今後の講義へのヒントが得られるというのである。
まさに「教え、また学ぶ」である。


 

プロフェッショナルから見た「会計・財務」教育

 西山氏が専門とする会計や財務の分野は、どうしても一般的に「おもしろくない」「難しい」という先入観を持たれることが多い。しかし西山氏は、それらは多くの場合「食わず嫌いでしかないのではないか」と言う。  西山氏の講義では、「とにかく受講者に(会計・財務への)興味を持ってもらう」「そのために受講者の心理的なハードルを下げる」といった工夫がほどこされている。
 会計や財務といった分野を学習する際には、「既存のフレームワーク」をきちんと理解することが重要だ。だからと言って講師がフレームワークの解説に固執すると、研修のすべてが「知識のレクチャー」だけに終始することになりかねない。これでは受講者の興味を引くことは、なかなか難しいだろう。

 西山氏は、自らの工夫について次のように語る。 「会計・財務の分野については、受講者が『数字を扱うジャンルも意外に面白い』と感じられるかどうかが最大のポイントなんですね。皆さんに『面白い』『楽しい』と感じてもらうため、私は『いかに関心を持ってもらうか』を気にしながら(講義を)進めることにしています。

 『会計や財務もなかなか面白い』と受講者に感じてもらうことができれば、その次は『会計や財務が具体的にどう役に立つのか』をきちんと理解してもらうことが重要でしょうね。そのためには、受講者の皆さんに『日頃の業務』と『会計・財務』をリンクして考えてもらうのが一番ではないかと思います。そこで私は、できるだけ受講者の会計・財務についての経験や知識(あるいは企業の事業内容や文化)にあわせて、研修の内容や構成を組み立てることにしています。具体的には、レクチャーやケーススタディで取り上げる事例を(受講者層にあわせて)選別するといった工夫を行なうことになりますが、これがなかなか難しい。そうした工夫を行なうために(受講者の皆さんのことをある程度は知っておく必要があるので)、研修を実施する企業の方とのコミュニケーションも大事にしています。事前のコミュニケーションが足りないと、相手企業のニーズも把握できませんから」


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企業経営者への提言

「世界的に見ていくと、日本のビジネスマンは必ずしも数字に強いとは言えない」と西山氏は言う。海外企業に多く見られる「数字に強いタイプの経営者」は、必ずどこかのタイミングで、きっちり会計や財務の勉強をしているそうだ。企業において、感覚や経験則だけを頼って定性的な議論に終始してしまうと、「なんとなく行けそうだな」というだけで、そのまま意思決定してしまうケースが少なくない。しかし、会計や財務というツールを使ってさまざまな事象を数字に落とし込めば、「定性的な議論の裏付け」が明確になり、いろいろなプランが具体化され、練り上げられ、結果としてより適切な意思決定ができる可能性が高くなる。

 「数字を持ち出さなくても意思決定はできますが、数字を持ち出すことでリスクは、特にダウンサイドリスク(マイナス方向への不確実性)は軽減できます。ですから、皆さんももっと数字を使っていただきたいですね。しつこいようですが、『会計』や『財務』は実際に皆さんが思っているほどハードルは高くありません。逆に、皆が『ハードルが高い』と思い込んでいるものを自分が使いこなせれば、それだけでアドバンテージにも繋がるんじゃないでしょうか」

 「会計」は、商人たちが日々の活動の結果を数字で集計するためのツールとして約 800 年前にベネチアで生み出され、今日に至るまで進化を続けてきたものだ。一方で「財務」は、投資家が企業を評価するためのツールとしてこの約50年間で急速に発展してきたものである。この2つのツールは、どちらも数字を使って企業の活動を客観的に分析していくためのツールであり、お互いに密接な関係を持っている。この2つのツールをもっと世に広めることで、少しでも多くのビジネスマン、さらには多くの企業がより適切な意思決定ができる支援をすることが、自分に課せられた使命である――西山氏はそう考えている。


 

【プロフィール】

西山 茂 氏(にしやま しげる)

早稲田大学政治経済学部卒業。米国ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士課程(MBA)修了。
監査法人ト-マツにて会計監査・企業買収・株式公開などの業務を担当したのち、㈱西山アソシエイツを設立し、株式公開支援や企業買収支援などの財務コンサルティング及び企業研修などの業務に従事。
2000年4月より早稲田大学大学院(ビジネススクール)助教授に就任し、現在教授。学術博士(早稲田大学)。公認会計士。

[主な著書]

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[新版]MBAアカウンティング

(監修及び共著、
ダイヤモンド社)

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[新版]企業分析シナリオ

(東洋経済新報社)

 

英文会計の基礎知識

(ジャパンタイムズ)

戦略財務会計

(ダイヤモンド社)

戦略管理会計

(ダイヤモンド社)

M&Aを成功に導くBSC活用モデル

(白桃書房)


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