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プロフェッショナルの横顔

 

関根 次郎 氏

せきね じろう

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第1回 関根 次郎 氏

「研修」という名を借りたコンサルティングで組織を変える

「政策論争」を仕掛ける

  How to を提供しても意味がない。顧客自身の目では見えなくなっている問題に気付かせる。まさしくそこに、第三者が係わる意味がある―――。
 国内の大手製造会社からコンサルティングの世界へと 25 年前に転身して以来、関根氏はそう考えている。コンサルティングにおいてのみならず、企業の研修を任されるときも、その信念は変わらない。単に知識を提供するだけのセミナーに終わらず、参加者とともに「政策論争」をして提言に結びつける。それが関根氏の手法であり、強みだ。
 「『これから先、市場はどのようになっていくか』を探ることにエネルギーを使って流行に乗り遅れまいとするのではなく、『明日は己の意志に基づいて切り拓く』という精神がなければ、“ポスト産業資本主義時代”において、いわゆる『勝ち組』になることはできない」と関根氏は主張する。
 市場とは、競合相手の動向を探って今後の主流を見極めることによって見つけるものではない。自ら創り出すものである。しかしながら、多くの日本企業がやっているのは、「自分たちはこうする」という主体的な市場の創出ではなく、「流れに身を任せ、それに自らを適応させていく」というスタンスの維持だと、関根氏は分析している。そして、こう続ける。
 「市場の成長性と事業の収益性の間にあるのは、正の相関ではなく、実は負の相関だ。これから主流になりそうなものには、遅かれ早かれどの企業も一斉に向かう。必要なのは、先行優位が働くようなビジネスモデルや、簡単に真似されないような仕組み―――たとえば製造業であれば基本特許の取得、サービス業であれば極上の接客マナーのように簡単には模倣されない無形資産の形成―――である。しかし、これらは一朝一夕にできることではない」


 

継続的にイノベーションを生み出す体質へ

 バブル崩壊後の消費者の価値観の変化や BRICs の台頭など、企業を取り巻く環境はめまぐるしく変化している。しかしながら、いまだに多くの日本企業が従来の発想でモノづくりやサービスの提供を続けており、革新を妨げる古い体質から脱却していない。まさにそうした企業を、関根氏は経営コンサルタントとして数多く見てきた。
 では、企業がこうした問題を乗り越え、勝ち残っていくためには、経営者は今なにをすればいいのか。この問いに対して、関根氏は次のような提言をしている。
 「企業が継続的にイノベーションを生み出せるような体質へと自らを変えること―――そしてそれをあくまでも、日本人の特質を自覚したうえで行うこと」
 イノベーションというのは、実はなんらかの事情で「たまたま」うまくいったために、1回くらい奇跡的に起こせる場合がなくはないという。たとえばそれは、優れたアイディアを持った天才的な社員がいたというようなケースである。しかしそれはいわゆる「一発屋」であり、企業の永続的な成長・発展にはつながらない。
 あくまでも関根氏が強調するのは、「継続的に」イノベーションを起こせる組織風土(土壌)を育むことの重要性である。ところが現状では、そうした土壌の醸成を阻むいくつもの障壁が、多くの企業でいまだに根強く残っているという。たとえばそれらは、過去のしがらみや惰性にとらわれて変化を嫌う、あるいは上下関係にとらわれるあまり自由な議論ができずに「指示を待つ」姿勢に甘んじるといったような、日本的な習癖を指す。関根氏は、経営者はまずこれらを取り払う努力を始めることが急務だと訴える。
 「鋭い洞察力」と「骨太の構想力」。マネジメントに必要な能力はこの2つに集約されると、関根氏は考えている。しかし残念ながら、現代の日本の経営者には両方を兼ね備えた人はきわめて少なく、またそうした人材を発掘・育成する企業努力も不十分だと感じている。


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世界と伍していくために必要な能力

 「鋭い洞察力」とはひらめきによる着想力や物事の本質を見抜く力であり、「骨太の構想力」はそれを論理的思考の積み重ねによって体系化する力のことである。ところが、いまだに知識の詰め込みを続ける日本の学校教育制度では、こうした「自分で考える力」は育まれない。そしてまた、企業も弁証法的論争を奨励する環境を整えないため、社会人になっても論理的思考力は一向に鍛えられない。管理職になっても自分の力で考えることができないような人たちに、関根氏は企業研修の場で出会ってきた。その数は、決して少なくないという。
 こうした日本特有の問題の根底にある要因に目を向けず、企業の研修もまた学校教育と同様に、専門知識の詰め込みや画一化された問題解決の手法、いわゆる How to を教えることに偏りがちだ。これでは企業にとって最も大切な資産であるはずの人材の層は厚くならず、世界の企業と伍して鎬を削っていくのは難しい。


 

欧米流でもなく、日本流でもなく

 関根氏は決して悲観論者ではない。もちろん「日本人はだめだ」などと言っているのでもない。 38 歳でコンサルティング業界へ転じるまでは日本企業に身を置き、いわゆる日本的な組織の一員として様々な業務に携わった。その後複数の外資系コンサルティング企業で働き、欧米流のやり方が必ずしも有効なわけではないことを、またその問題点も熟知している。
 こうした経験を持つ自分だからこそできることがある。関根氏はそう思っている。そしてそれを使命だと感じている。長い目で見ると、関根氏が行う企業研修は、「研修」という名を借りたコンサルティングと言ってもいいのかもしれない。


 

【プロフィール】

関根 次郎 氏(せきね じろう)

早稲田大学理工学部卒業。スタンフォード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。
(株)ブリヂストン企画部門において、M&A、海外進出、独禁法対策等に関する政策立案、研究開発部門の組織開発などに従事。

その後、マネジメント・コンサルティング業界に移る。SRIインターナショナル、ベイン・アンド・カンパニー(マネジメント・コミッティー・メンバー)、コーポレイト・ディレクション・インク(取締役)を経て、93年に独立。現在、(株)マネジメント・イノヴェーションの代表取締役。独立後は、トップ・マネジメント・コンサルタントとして、一貫して企業の「経営革新プロジェクト」を数多く手がけるかたわら、トップ経営者顧問、経営諮問委員、社外監査役、経営幹部研修、講演、執筆等の活動にも取り組む。

1999年度早稲田大学ビジネススクール非常勤講師、2004年度より2006年度まで青山学院大学大学院国際マネジメント研究科非常勤講師。

[主な著書]

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マネジメントの本質

(東洋経済新報社)

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経営革新のシナリオ

(東洋経済新報社)

 

トップダウンの経営

(日本経済新聞社)

イノベーションを唱える前に自覚すべきこと

(「化学経済」誌 2007年1月号)

資源ベース戦略論を超えて

(青山マネジメントレビュー」誌 2006年10月号)


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