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松山 秀雄 氏

まつやま ひでお

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第6回 松山 秀雄 氏

『「クライアントとの呼吸」をつかむ、カウンセリング的コンサルティング』

 

経営戦略の専門家から、総合コンサルタントへ

 松山秀雄氏は、さまざまなジャンルの知識を融合させた、総合的なコンサルティングおよび研修教育・人材の育成を得意としている。彼の手がけるジャンルは、マーケティングからTQM、IT、ベンチャー支援、中国進出まで実に幅広いが、もともと彼は経営戦略に特化したスペシャリストだった。
 
経営戦略コンサルタントは、しばしば「経営トップへのアドバイサー」と呼ばれるように、数あるコンサルタントの中でも頂点に位置すると考える人も多い。
 
松山氏も当初は、経営戦略のスペシャリストとして高い意識を持ち、コンサルティングにあたっていた。ところが、多くのコンサルティング業務を経験していくうちに、「経営戦略だけではなく、もっと幅広い分野について精通する必要がある」と考えるようになっていった。つまり、経営戦略があいまいなのにうまく企業価値を高めている会社がある一方で、すばらしい経営戦略を標榜しているにも関わらず、まったく成果が出ていない会社もある。
 
そういった、あたりまえの現実が見えてくるにつれて、「経営戦略だけしかできない、専門バカになりつつある自分」に気づいたというのだ。

 そこで松山氏は、より幅広いコンサルティングができる環境を求めて、当時所属していた経営戦略専門のコンサルティングファームから同僚とスピンアウト。現在のような"総合コンサルタント"へと転身した。


 

コンサルタントはカウンセラーでもある

本来、コンサルタントの仕事は、さまざまな調査結果と理論に基づいて、クライアントに何らかの解決策の提言を行なうことである。
 
しかし、「コンサルタントがどんなにすばらしい提言を行なったとしても、それだけでは充分でない」というのが、松山氏の主張だ。彼によれば、「提言を受けたクライアントが、実際にアクションを起こす」というプロセスを経て初めて意味を持つのだという。したがって、クライアントがアクションを起こせない場合、彼らの背中を押してやることが、コンサルタントとしてもうひとつの重要な仕事になるのだ。

これはもはや、コンサルタントというよりカウンセラーに近い役割かもしれないと、松山氏は言う。

――― コンサルタントの仕事内容は、大きく分けて3つの側面があります。つまり、企業やマーケットの実態を調査する 「リサーチャー」としての側面。そして、リサーチした結果に基づいて経営判断を行なう、本来の「コンサルタント」としての側面。最後に、経営判断を実行に移すための決定に立ち会う「カウンセラー」としての側面です。
 
最後の「カウンセラー」としての側面は、厳密には助言者であるコンサルタントの範疇から外れる仕事かもしれません。しかし、これこそがもっとも重要な仕事であると、私は考えます。  
クライアントの経営トップや経営陣が一つの決定をするときの判断基準は、経済合理性だけではないのが通常です。うちの会社らしさといった美意識や肌合いとでもいうようなものを持ち出したり、感覚的に過去の経験とすり合わせをしていたりするのです。
 
このようなときは、コンサルタントが、クライアントの思いをしみじみ理解するという姿勢が大事なのです。コンサルタントに理解してもらったことで、クライアントが安心感を得る。そして自然と勇気づけられ、内面から自信がわいてくる。これがいわゆる肚に落ちるということです。

とはいっても、「同調しかしない」というのはいただけません。そんなことをすると、クライアントは、これまでと異なる発想での試みをどんどん避けるようになり、最終的に変わり映えのしない案を選んでしまいます。これではコンサルティングを行なう意味がありません。「相手の発言にある程度は同意しつつ、変えるべきことは変えるべきと譲らない」という"呼吸"が大事なのです。この"呼吸"をつかむのが、なかなか難しいですね。 ―――


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クライアントと"同じ呼吸"をする

実は、クライアントと同じ呼吸をするノウハウこそが、松山氏の持ち味なのである。 単に"呼吸"といわれても、なんだか漠然として分かりづらいが、結局これは、「相手(クライアント)のことを人間的に深く理解する」ということに他ならない。

松山氏は、「会社を単なる経済合理性だけで動いているものと見るのでなく、自我をもつ生き物なのだと見ることで、自ずから"呼吸"も見えてくる」と主張する。しかし、従来のコンサルティングでは、必ずしもそうは見ない」という現実もあったと指摘する。
 
つまり、古典的なコンサルティングのスタイルでは、「コンサルタントがクライアントから資料やデータを受け取り、それに基づいて独自に調査・分析を行ない、結論が出たところで役員会に出向いて、クライアントに一方的に結果を示す」といった風景になりがちだったというのだ。「このような形で行った判断では、他人の臓器を無理に移植されたような違和感を後々まで引きずるはずです。」
 
一方、松山氏のコンサルティングでは、クライアントとのコラボレーションを非常に重視する。クライアントとコンサルタントが、長い時間をかけてコミュニケーションを行ない、その中で両者が一緒になって結論を導き出していく。 まさにクライアント主体のコンサルティングである。 このプロセスが「同じ呼吸をする」という松山氏の持ち味に直結しているのだ。

松山氏は次のように語る。

――― もともと私は、「経営戦略」しか知らなかった。 それだけですべてが解決すると思い込んでいたのです。ところが、クライアントと一緒にコミュニケーションしながら、時間をかけてコンサルティングを行なっていく中で、「経営はそんなに簡単なものではない」という当たり前のことに気づかされました。おそらく、古式ゆかしい「クライアントを指導するという姿勢のコンサルティング」を貫いていたのでは、この当たり前の事実に気づかなかったと思います。
 
ここに来るまで、何度も「コンサルタントとして限界にぶつかった」と感じることがありました。そのたびに、クライアントの皆さんに助けられて、カラを破ることができました。

ときにはコンサルタントとして、ときにはカウンセラーとして、クライアントの潜在意識にまで関わっていく。あくまでクライアントのことを思いやり、決して妥協しない松山氏だからこそできる芸当なのだろう。


 

【プロフィール】

松山 秀雄 氏(まつやま ひでお)

東京大学工学系大学院修士課程修了。
ボストン コンサルティング グループに勤務。
その後、コーポレイトディレクション・イズモを経て
企業創房の代表取締役に就任。


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