建築家との仕事から

ちょうど二年前から、建築家と仕事をしています。厳密にいうと、仕事をしているのは相手の方で、私は施主の立場で「建築プロジェクト」に参加しているわけです。

こういう経験は二度目ですが、前回と違って自分が住む建物の設計を依頼したのではなく、事業用つまり賃貸住宅の設計依頼なので、だいぶ私の意識も異なります。

自家用であれば、うまくいかなかったとしても、自分が我慢すればいいだけのことですが、事業用となるとそうはいきません。うまくいかなければ、賃料が入らず借金の返済ができず、最悪自己破産なんてことにもなりかねません。

従って、前回以上に「口を出す」ことになり、建築家とのコミュニケーションの頻度も格段に多くなります。そんな中、建築家という仕事のすごさ、大変さなども見えてきます。

建築家とは、様々な制約のもとで、クライアント(施主)の願望にできるだけ沿う建物空間を設計し、最終的にモノとして完成させる役割です。制約にも、物理的(土地面積、立地等)、制度的(規制等)、時間的(工期等)、金銭的(予算等)、環境的(近隣、気候等)、技術的(工法等)など、様々な要素があります。それは膨大な変数とも言えます。

また、クライアントの願望に沿うと一口で言っても、容易ではありません。まずクライアント自身が願望を描けていなかったり、描けていたとしても言語化でききなかったり、途中で願望が変わったりするからです。

例えば、建築家が「A」を示し「エー」のつもりで伝えたとしても、クライアントは「ア」だと思っているかもしれません。そうならないように、共通言語でコミュニケーションを図り、最終的にそれら願望を掬い取ってモノに落とし込む責任を負うわけですから大変です。

さらには、実際にモノを造り上げるのは建築家ではなく施工会社ですから、施工会社の力量を十分把握した上で、建築家のつくりあげたイメージを正しく伝え、実行してもらわなければなりません。施工会社だけでなく、水道業者、電気業者、電力会社、お役所など、様々な関係者との関わりも出てきます。そういった監理も担います。

アーチストは自分でイメージを創り、かつそれを自分で形にして表現するわけですが、建築家は他者(クライアント)の願望をもとにイメージを創り、それを他者(主に施工会社)にモノとして完成してもらうのですから、はるかに難易度が高いと言えるかもしれません。

建築家はこうした複雑なプロジェクトの推進役、つまりプロジェクト・マネジャーでもあるのです。

さて、次に建築家が創造したイメージを、現実化する過程を見てみましょう。

仮に建築家の頭の中で、様々な制約をクリアし、かつクライアントの願望も満たす素晴らしいイメージが浮かんだとします。建築家は、それを「外化」、つまり何らかの形式で表現しなければなりません。まず2次元のドローイングかもしれません。次に、それを3次元の模型(「フィジカル・モデル」)を作りあげるでしょう。そして、試行錯誤でそれらを行き来することでしょう。そうして、実際の建物のイメージが固まっていき、図面(≒楽譜)に落としこまれる。

重要なのは、この試行錯誤プロセスです。このプロセスには、標準的な方法論などないでしょう。そこでは、数多くの変数を考慮しなければなりませんから。しかし、建築家はそれまでの経験の中で、自分なりの方法論(「プロセス・モデル」)持っているのだと思います。ただ、これは暗黙知に近く、なかなか形式化できない。しかし、近年はデジタル化が進み、数値データに置き換えた情報を加工することで、「プロセス・モデル」を形式化し表現できるようになっているようです。

そうなると、コンピューター上でより高次元のヴァーチャルな「模型」が作成できるようになります。その「フォーム・モデル」を駆使して、様々なシミュレーションも可能になる。そのフィードバックを受けて、「プロセス・モデル」も修正を繰り返す。

「フォーム・モデル」を使うことで、建築中の現場との情報の相互フィードバックが可能となり、リアルな建物の完成度さらに高まっていく。建築家は、こんな複雑なことを行っているのです。

たまたま先日、建築家の豊田啓介氏の講演を聴く機会がありました。そこで語られていた以下のコンセプトが、この二年間の建築家との関わりで何となく感じてきたことが簡単に表現されていると感じ、私の言葉で語ってみました。

https://noizarchitects.com/archives/works/diagram ttps://noizarchitects.com/office

しかし、この一連のプロセスは建築の世界だけでなく、他者とのインタラクションを通じてアウトプットを創りあげる、どんな方にも共通する基盤のようなものだと感じます。

今後は豊田氏の言う、Physical WorldとDigital Worldの境界=Common groundにこそ、大きな付加価値があるのだと思います。

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