思考の枠をはずす

以前書いた( http://www.adat-inc.com/fukublog/2019/06/post-567.html )某大企業の新任役員研修が、先週金曜の社長プレゼンで終了しました。要約すると、新任役員に約二ヶ月かけて、グループでアウトプットを作成させるというもの。6グル―プあり、3つのテーマをそれぞれ2グループが担当し競わせる。そのテーマは、「歴史認識」、「社会と経済の構造変化」、「日本の生産性」という、非常にチャレンジングなものでした。

忙しい中、各グループ毎週のように集まり議論を進めてきたそうです。そして、金曜に社長に対しプレゼンし、それに対する他グループからの質問に答え、テーマごとに最後に社長がコメントをされました。

結論から言えば、どのグループも社長の期待には応えられたように見えました。サポートしてきたものとして、安心しました。

社長のコメントは、細かいロジックや細部にはほとんど言及せず、視座の高さと着眼のユニークさに注目していたようでした。各メンバーは普段の仕事で使う脳とは異なる部分を鍛えあげたようで、その様子が発表や質疑応答から垣間見られたのでしょう。

もともと本研修の目的は、経営者としての視座に引き上げることだったので、それは達成されたと判断されたのだと思います。

ただ、一言で「視座を上げる」とよく言いますが、その実態はなかなか理解できません。従って、研修で上げさせることは容易ではありません。だからあえて社長は、これらの非常に曖昧で難易度の高いテーマを指定したのでしょう。受講者自身も社長の意図を理解し、その上で達成感も味わっていたようでした。

人がこれまでの経験から形づくってきた視座、すなわち思考の枠をはずすことは、本当に大変なことなのです。それに挑んだこの会社(特にメンバー)は大したものです。

*********************

その翌日(一昨日)、私は朝から国立能楽堂に向かいました。もともとその日の午後、梅若実師がシテをつとめる「卒塔婆小町」を観ることになっていましたが、前日の金曜、友人で能楽師の宮内美樹さんから、その公演を絡めた学びの会がその日あるからと誘っていただき、急遽参加することにしたからです。

その会とは、ある30代半ばの女性が能を観ることが大好きになったのに、なかなか一緒に観にってくれる友達がいないので、友達を能好きにしてしまおうと始めた集まりだそうです。

ユニークなのは、ただ能を知識として学んだり観たりするのではなく、能と何かを掛けあわせて議論することです。その前提として、能は現代の凝り固まった思考の枠組みや限界をはずしてくれるものとして位置づけています。だから、「現代脱出塾」と銘打っています。9/28は、「美」を切り口にして、能を使って現代(すなわち思考枠組み)脱出を試みようとの狙いでした。

国立能楽堂とも連携しており、普段入ることのできない稽古用能舞台を会場として使用。参加者13名は、主宰者以外はほとんど能を観たことがない20代から30代の若い方々でした。

午前中は宮内さんのレクチャーです。「能とは?」から始まり、能面を見比べたり、午後観る「卒塔婆小町」の内容や観方を聞き、舞台上で扇子を持っての「構え」の練習迄・・。その間、いつでも質問OKで、非常に中味の濃いレクチャでした。

そして13時より観能。終演後、また稽古用舞台に集まって振返りセッション。

そこでは、ひとり一人順番に感想を述べ合いました。私は、初めて観る能が「卒塔婆小町」というのは、かなりハードルが高いのではと思いました。ただでさえ難しいと言われる能の中でも、特に動きが少なくエンタテイメント性も低い難解といわれる老女もののひとつです。

しかし、参加者の語る感想は、とても面白いものでした。ほとんどの方が、左脳で能を理解しようとするのではなく、感性で理解しようとしていたからです。自分が得意な「ダンス」や「バスケットボール」を使って能を感じ取ろうとする人もおり、それぞれの方法で能を感じ取り、楽しみを見つけているようでした。

やはり若いだけに思考の枠が固定化されておらず、柔軟に枠を動かすことができるのでしょう。私も同世代の友人に、何度も能の面白さを伝え、観ることを誘ったりもしたのですが、なかなか好きになってくれる人はいません。その時に感ずる「壁」は、思考の枠だったのでしょうね。

能もビジネスも、経験豊富で思考の枠組みが固定化されてしまった人を変えることは容易ではありません。そこにエネルギーを使うよりは、まだ枠がはっきりできていない若い方々に働きかけたほうがずっと生産的だと、この二日間でつくづく思いました。

(とはいえ、主に社会を動かしているのは50代以上であることは事実で、そこへの働きかけも重要であることは言うまでもありません)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です