研修などで学ぶ知識を、どれだけ自分固有の問題とひもづける、あるいは意味づけることができるか、それが学習能力のキーだと感じています。一方通行型の講義は最近不人気ですが、学習者の側に意味づける能力があれば、何の問題もありません。かえって、教える側が学習者に歩み寄って、知識を限定的に講釈してしまうことで、意味づけの自由度を限定してしまうリスクがないぶん、好ましい場合もあるでしょう。

 

しかし、意味づける力が低ければ、どんなに素晴らしい知識を聞いたとしても、単なる理論だった、とか自分と異なる世界の話だったと感じて、猫に小判となることが多いことでしょう。実際、受講者のレベルが高い企業では、そのようなフィードバックはほとんどありません。ただ、残念ながら多くの企業では意味づけしやすくなるようなアプローチ(例えばカスタマイズ・・・)を求めるようです。その差は学習能力の差ですから、時間がたてばたつほど成長に差がついていきます。つまり格差が発生します。

 

意味づける力を高めるにはどうしたらいいでしょうか?先日、ある企業の法人営業部門で定量分析研修の講師をしました。営業マンも数字に基づいて活動しなければならないとの問題意識からです。二日間でしたが、初日はひと通り基本的な知識を演習で学び、二日目は自分たちの営業活動を扱いました。

 

二日目は、前回ブログで書いた「わかる」こと、つまり自分たちの営業活動という世界を記述する訓練をしました。どうやって儲けが生まれるのかダイアグラムで図示し、各要素間の関係を式(加減乗除)に置き換えます。そして、さらにその関係をエクセルに落とし込み、シミュレーション・モデルを作成してもらいました。つまり、自分たちのビジネス・モデルを記述して、感度分析を行うわけです。その上で、顧客へ提示する条件(価格など)を決定してもらいます。

 

当然、多くの変数には仮の数字を入れることになりますが、自分たちの頭で仮の数字をつくるプロセス自体、業務を真剣に見つめ直すことになります。これはあくまで研修であり、営業計画を作成しているわけではありません。私が期待したのは、あらためて客観的に業務を見つめ直して、「あるべき」モデルを選び直すことです。ゼロベースからつくり直すことは期待していません。ある程度の制約の中で、多くの可能性を見つけ出して、その中から選ぶだけで十分です。

 

固定費の配賦など、ややこしいこともあります。普段は、決められたルールで自動的に配賦されるのでしょうが、そうではなく自分達がフェアだと考えるルールを見つけ出して欲しかったのです。それを考える中で、自分たちがどういう行動を取ればいいのか、あるいは他者にどう働きかけるべきなのかが見えてくると考えたからです。しかし、実際はややこしい配賦は現実の配賦ルールをそのまま持ってくるグループがほとんどでした。

 

もう一つ期待したことは、自分達の儲けをシミュレーションしながら、顧客の儲けもセットで考えることです。ウィンウィンの関係をつくることがビジネスの大前提です。それを具体的な数字で確認して欲しかった。残念ながら、そこまで考えが及んだのは、5チーム中1チームだけでした。

 

そして、最後のこの演習から、今後もっと儲けるためのどのような示唆が得られたか、何をすべきと考えたかを各チームでディスカッションし発表してもらいました。本来普段から考えていることのはずですが、ダイアグラム作成、シミュレーションを通じて、新しいアイデアが芽生えるはずだと考えたのです。結果は、2チームは新しい発見があったようですが、3チームは普段の延長線上の発表にみえました。問いがなまなましいだけに、後者は研修という設定を忘れてしまったのかもしれません。

 

実は、研修の前に法人営業部長にヒアリングし、それに基づいて初日の一般的な演習問題にも多少手を加えて、受講者の業務に関係するようなつくりにしました。わかる人にはわかるし、わからない人にはわからないという程度です。つまり、意味づけできる人には実践的ですが、できない人には一般論と受け止められるかもしれません。やってみての印象は、半々までいったかどうかです。部長は、研修終了時の挨拶で受講者にこうおっしゃいました。

「二日間ずっと後ろで見ていたが、どの演習問題もウチの法人営業に直結することばかりだった。まだわからない人もいるかもしれないが、これからおいおい仕事の中で話しをしていく」

 

今回の研修がひとつのきっかけになり、この会社の法人営業部隊が組織として学んでいくようになれば、こんなに嬉しいことはありません。

 

最初の問いに戻りますが、研修という安全地帯で順序だてて「選び直し」をする活動を繰り返すことで、「意味づけ」の能力も高まってくるのではないでしょうか。今回は、だいぶ歩み寄ったアプローチでしたが、最初の一歩としては適切だったかなと思います。

 

 

もうひとつ面白かったのは、ある比較的若い受講者がだんだん元気になって活躍し出したことです。最後は自信をもってチーム代表として発表していました。もちろん実務と研修は全く違いますが、この研修で自信をつけて、業務でも持っている能力を発揮してくれるようになると嬉しいですね。

楽天やファーストリテイリングの英語公用語に代表されるように、社内での「英語」教育の動きが盛んになっています。弊社でも、大手化学品メーカ-の新入社員を対象にした、英語に関する研修を実施しました。

 

仮にA社としましょう。A社はアジアを中心にグローバル展開を志向しています。新卒採用は約100名。そのうちの7割以上は修士、博士号を持つ技術者や研究者の卵です。外国人も数人います。彼らの多くは近い将来、仕事で海外と関わりを持つことになるでしょう。

 

当初、A社人材開発担当者からの要望は、新入社員研修に英語教育のプログラムを加えたいという漠然としたものでした。しかも使える時間は一日(7時間)だけ。内定時点と新入社員研修終了後の2回、TOEICを受験させることだけは決まっていました。それから、A社とディスカッションを繰り返し、プログラムを詰めていきました。

 

最初に出てきたA社からのアイデアは、

「ネイティブ講師による英語漬けによるショック療法」というものでした。受講者は、今英語はできなくても基本的には優秀なので、自分ができないというショックを与えれば発奮して勉強するようになるだろうという仮説があったようです。それに対し弊社は、疑問を呈しました。発奮する人もいるかもしれないが、逆に苦手意識を植え付けてしまい英語が嫌いになる人もいるかもしれない。トータルでは費用対効果は高くないと判断したのです。

 

その後対案を出しました。たった一日で英語習得などできるはずもなく、必要なのは英語習得の重要性を気づかせることと、決して難しいことではないと思ってもらうこと。つまり、「英語習得は絶対自分のためになることだし、コツを飲み込めば意外にスムーズにできる」と納得させることをゴールに置いたのです。

 

その方向でA社の合意も取れました。では、どういうプログラムにすればそのゴールが達成できるか。アダットパートナー講師の青野仲達さんに相談しました。青野さんは、ハーバードでMBA取得後、マンツーマン英会話教室GABAを創業し、現在はビジネスブレークスクール大学教授として英語教育に取り組んでおられます。

 

青野さんとA社担当者と相談しながら、プログラムが固まっていきました。

100人を2クラスに分け、同時並行で実施(これは制約条件)

・午前と午後の2パートに分け、各パートにそれを得意とする講師が担当(つまり講師二人が昼休みで入れ替わる)

・ひとつのパートは、「英語習得のフレームワーク」を青野講師が担当。そこで、グローバル経済における英語の意義や、習得の「道具箱」を伝授

・もうひとつのパートは、日本人が英語習得で最も苦手とする「ヒアリング」と「発音」に絞って「コツ」を伝授。さらにグローバル・リテラシーのポイントも紹介(発音の専門家の竹村和浩さんに担当していただく)

・両パートとも、理科系の受講者が理解しやすいよう徹底して論理的に解説

・できるだけ一方通行の講義にならないように、ワークショップや演習を組み込む

 

大筋が固まったところで、A社から追加の要望がでました。やはり、少しはショックを与えるために、日本語厳禁で英語だけの時間も入れ込んでほしいというものです。そこで、青野さんと相談し、30分だけ英語しか話せないパートを加えました。では、何を受講者に英語で話してもらうか?A社の経営理念を題材にして、講師の質問に対して英語でその意味や解釈を話してもらうことにしたのです。ちなみに、事前にA社経営理念の英語版を配布しておきます。

 

こうしてA社と両講師と弊社の三者で詰めていったプログラムは、4月の新人研修の中で無事実施できました。真面目でシャイな受講者たちでしたが、想像以上に楽しそうに積極的に参加してくれたと思います。苦労しながらも必死に英語で質問に応える姿は、彼ら彼女らの今後の成長を予感させるもので、A社の将来が楽しみになってきました。受講者からも、英語学習へのモチベーションが高まったとの声が多く寄せられています。受講者たちとその企業の成長の予感を味わうことができるのが、この仕事の最大喜びかもしれません。

 

「企業と人材」10月号(産労総合研究所刊)に、弊社代表福澤英弘が寄稿しています。

「第34回教育研修費用の実態」調査発表に付随した「中級管理職教育」についての論稿です。


以下から、PDF版がダウンロードできます。

社団法人日本経営協会が発行する経営情報誌 「Omni-Management 7月号」に、アダット代表福澤英弘の論文が掲載されました。

「『グローバル・スタンダード型経営』から『人を基軸にした経営』へ -企業を強くする個人と組織の能力開発とは-」

 

以下からダウンロードできます。

  OM.201007福澤英弘.pdf

2010年5月11日、日本CHO協会において、アダット代表福澤英弘が「日本企業における組織開発の意味とHRD部門の役割」というタイトルで講演を行いました。

資料(PDF)は以下をクリックしてご覧ください。PPT36ページです。

アダット福澤100511.pdf

社団法人日本経営協会が発行する経営情報誌 「Omni・Management」4月号に、慶應義塾大学大学院経営管理研究科清水勝彦教授の論文が掲載されました。

「価格破壊と自社の『原点』」

 -顧客や競争に振り回される経営の限界を直視せよ―

 

以下からダウンロードできます。

omni management4清水勝彦氏.pdf

「人材教育 4月号」(JMAM)に、アダット代表福澤英弘の寄稿論文「スマートHRDをめざして・人材開発部自身が変わる」が掲載されました。

 

以下をクリックするとPDF版がご覧になれます。

人材教育4月号論壇 福澤.pdf

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