ブックレビュー: 2014年7月アーカイブ

B00L50PC48ユニ・チャーム 共振の経営
高原豪久
日本経済新聞出版社 2014-06-23

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ユニ・チャーム高原豪久社長の著書「共振の経営」を読みました。日本企業がグローバルで勝ち残っていくためのヒントに満ち溢れた、とても良い本です。何より、高原さんの実体験に基づいて獲得した経験知を中心に書かれているのが素晴らしいです。借りてきた欧米由来の経営論にこだわるのではなく、自らの言葉で語っています。

 

いろいろ参考になる点が多いのですが、一番なるほどと思ったのは、SAPS経営に関することです。SAPS経営とは、わかりやすくいえば、課やチーム単位での週間スケジュールを対象としたPDCA活動のことです。他の会社でも、営業部門などでは毎週のスケジュールを上司と部下で摺合せする行動管理をすることは多いでしょう。一般にスケジュール管理は、上司が部下がいい加減な行動を取っていないかをチェックし、取り締まる目的で行います。「先週の訪問件数は少ない。今週は2割増しで訪問せよ」といった感じです。


しかし当社では、そもそも目的が異なるようです。上司が部下を管理する手段ではなく、社員が経験からの学びを最大化するための手段なのです。まったく似て非なるもの。経験を振り返るためには比較対象となる「計画」が必要なので、それを毎週設定するのです。予算のブレークダウンであるノルマとしての計画ではなく、学ぶためのツールとしての計画。これが成り立つためには、経験から学ぶことを支援する上司や同僚の存在が欠かせません。そのために、相互に助け合い信頼しあう組織文化の醸成や、リーダーは部下育成こそが最大の仕事といった価値観の浸透が徹底されています。さらに、これらの前提として、「人間は誰しも秘めた能力を有しており、これに大きな差はない」という人間観があります。

 

時間管理やPDCAを性悪説に基づく「部下管理(統制)」の手段ではなく、能力を秘めた社員の「学習」手段として適用したのは、セブン・イレブン・ジャパンが本家で行われていた店員の不正防止手段としての単品管理を、仮説検証やマーケティングの手段として適用したのと似ています。セブンも店員のモラールや能力に対する信頼があったからこそ、こうしたことができたでのしょう。

こういった、助け合い学びあう組織は、実は日本企業が強みとしてずっと保持し続けてきたものではないでしょうか。それがいつのまにか、性悪説に基づいた管理志向の経営が主流になってしまった。その過程で、アメリカで主流となっているマネジメント手法を有り難がって輸入した、経営学者やコンサル、そして何よりも導入した経営者の責任は重いと言えるでしょう。

 

しかし本書を読んで、日本企業が巨大グローバル企業と伍して戦っていくには、あらためて自分たちの強みを再認識してそれを前面に押し出していくしかないと思いました。当社のアジアでの成功はその裏付けになります。現在佳境のブラジルワールドカップでは、日本代表はそれを目指したのでしょうが、まだ世界には及びませんでした。でも方向性は間違っていないと思います。まだ力が足りなかっただけです。

 

一方、なでしこジャパンは2011年のワールドカップで、その方向性の正しさを証明しました。その後、世界の強豪国の多くが、なでしこの戦い方を取り入れようと研究したそうです。近い将来、経営の世界でも同じことが起こらないと誰が言えるでしょうか。セブンやユニ・チャーム、それに良品計画などが、世界にとっては新しい「日本的経営」のモデルとして、研究される姿が見えるような気がします。

 

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