マネジャーとリーダーが同じ意味で使われ、その結果当事者が混乱することが多いようです。
マネジャーという言葉は、従来あった管理職の翻訳として使われてきた経緯があります。本来管理職とは、労働組合員に対立する概念で、経営者の委任を受けて組合員を管理し、経営者の意図するように行動をさせる役割だったと思います。だから、管理職になると組合員でなくなる。
経営者は組織が大きくなると、自分の意図が末端にまでなかなか伝わりにくくなり混乱するので、レイヤーを作り管理可能な組織に分割していって、その小さな集団を任せる相手がマネジャーです。
別の言い方をすれば、組織の拡大に伴って増す複雑性をできるだけ小さくするために、管理職が必要なのです。目的は、不確実性の低減なのです。
こういった経緯から、マネジャーの役割は以下に整理できます。
1. 経営者の意図を解釈して部下に適切に伝える(短期スコープ)
2. 管轄する組織の業績が大きくぶれないように、部下を指導したり、組織の関係性を良好に保ったり、そのために関係者間の調整を図る(短中期スコープ)
3. 長期的な不確実性を低減させるために、部下を育成する(長期スコープ)
(指導は短期的スキル向上のため、育成は長期的成長のためと整理できますが、もちろん重なってきます)
最後の部下育成は、本来はマネジャーの役割とはいえません。なぜなら、育成の成果が出るのはずっと先のことであり、その時にはもう自分の部下ではなくなっている可能性も高いからです。にもかかわらず、その責任を引き受けるのは、終身雇用が前提の日本企業においては、自分の将来を支えてくれる若手が必要不可欠であり、長期的には自分のメリットにもなるからです。その前提で、経営者マネジャーに育成を委任し、マネジャーはそれを引きうける。ただし、その前提が疑わしくなってきている現在、部下育成は大きな問題にぶつかっているのです。
ところで、リーダーは全く異なる概念です。日本で頻繁に使われるようになったのは、バブル崩壊あたりではないでしょうか。リーダーとは、集団の「結果」を出すことに責任を持つ人です。極端に言えば、マネジャーは結果(ビジネスでは数字)を出すことよりも、担当組織の不確実性低減のほうが大事です。しかし、リーダーは逆です。不確実性などよりも、今の結果のほうが遥かに大事。そう、成果主義の考え方に基づきます。だから、バブル崩壊後の業績不振に苦しむ日本企業は、少しでも今の数字を上げるために、成果主義を取り入れリーダーを重視したのです。現在、成果主義の看板を下げる企業は増えていますが、リーダーはますます重視されているようです。そこに、矛盾があります。
もう少し言えば、マネジャーは経営者から委任された「役職」であり、リーダーは本来役職ではなく「役割」です。この差は大きい。役職とは経営者から公式な責任と引き換えに人事権という武器を与えられる立場です。しかし、「役割」にはそういう武器は与えられません。逆に言えば、そういう武器がなくても責任を果たすことができる人だけが、「リーダー」だとフォロワーから認められるのです。
だから、リーダーは必ずしもその組織内の上位者である必要はありません。ある状況において最もその役割を果たせる人が、その場でのリーダーになればいい。リーダーシップとは、組織の成果を出すための能力です。いわゆるフォロワーであっても、組織の成果創出のためのリーダーシップの発揮の仕方があります。強い組織とは、全員が状況によってリーダーになれ、しかもそれぞれの立場でリーダーシップを発揮できる集団です。
ここまで述べてきたように、マネジャーとリーダーは、正反対とは言わないまでも大きく異なる概念です。経営側も管理者側も社員も、この二つの概念を混同して使っているため、様々な問題が発生しているのではないでしょうか。
今の日本企業により求められているのは、リーダーであることは間違いない。そこで、組織の成果を出すことができるリーダーの役割をもう少しブレイクダウンしましょう。いろいろな考え方はあると思いますが、私は以下の4点を重視します。
1. 自組織のゴールを定義する
2. 先頭を切ってリスクを引き受ける
3. 腹を括って決める
4. メンバーそれぞれに合った形で影響力を行使する
これは大きなテーマなので、またじっくり整理していきたいと思います。