意思決定: 2011年2月アーカイブ

今年に入ってからチュニジア、エジプトといったアラブ諸国で起きていることを年初に予測した人は、おそらく世界じゅう探してもいないでしょう。それまで治安警察などに抑え込まれていた民衆が、危険を顧みず大規模なデモを繰り返し、完全に民主的な方法で政権を崩壊させたのです。な

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ぜ、民衆はリスクを恐れず行動したのか。フェイスブックの力は確かに大きかったでしょうが、この革命の本質は違うところにあると思います。

 

現在のひどい状況が、将来さらに悪くなると多く人々が確信したので、リスクを取る行動を示したのではないでしょうか。

 

現在の状況とは、絶対的なレベルではなく、過去や他者との比較で認識されるでしょう。アラブの状況で言えば、以前より豊かになっているかと、貧富の差が拡大していないかの点です。日本の敗戦直後のように、皆が貧しければ耐えられるのです。チュニジアもエジプトも、全体的には豊かになっていますが、貧富の差の拡大は大きな問題となってきていたようです。政府は、豊かにしてやったのだから多少の貧富の差は我慢せよとの意図だったのでしょうが、貧富の差は想定以上に大きな不満の種だったのです。貧富の差の固定化を促す治安警察の抑圧と食糧価格高騰が、それに拍車をかけます。

 

多くの民衆の感じ方は、

『国は以前より豊か<自分は他者よりも貧しい』、だと思います。

 

もうひとつは、未来の予測される状況です。今回のデモの主流は若者でした。彼らは最も失業に苦しんでいる世代です。国が豊かになってきているのに、自分たちには職がなく生活が苦しい。その傾向は改善するどころか悪化している。その原因の一つには、グローバル化を前提とした、リーマンショック以降の世界同時不況や中国をはじめとする新興国の需要爆発による物価高騰もあるでしょう。しかし、大事なのは若者にとって職、すなわち未来がないこと、そしてそれが改善される見込みが立たないことです。

 

『国は豊になっていく<自分には未来がない』

 

つまり、ひどい現状がさらに悪くなると確信すれば、政府に反旗を翻すという大きなリスクを取ることも正当化されるのです。もちろん、リターンすなわち革命の成果はまだ見えません。ただ、見えない将来のリターンにも見合うくらいの現状のひどさと希望喪失があったのでしょう。

 

デモ中のタハリール広場(カイロ)では、持ち物検査のために長い行列ができたり、イスラムの礼拝の時間にキリスト教徒による人間の楯で守ったりしたそうです。さらに大統領辞任が決まり広場から撤収する時は、皆で掃除をしていたそうです。これらはそれまでのエジプトの国民性からは考えられないことだということです。リスクを見積もってその結果一歩踏み出すことは希望を持つことであり、希望は人に誇りと倫理感をもたらすのかもしれません。

 

翻って現在の日本、そして中国はどうでしょうか。

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