経営: 2014年9月アーカイブ

長年いろいろな企業の幹部候補の研修に携わっていると、様々な傾向が見えてきます。最近強く感じるのは、リスク回避の傾向が以前に比べて高まっていることです。

 

たとえば合理性を重視することを強調すると、いくつかのオプションの内で最もリスクが低いものを選択する傾向が顕著です。八割くらいはそうです。どうやら、合理的選択=リスク回避という等式が成り立っているようなのです。

 

いうまでもなく、合理的選択とは、リスクとリターンのバランスも考慮したうえで、もっとも好ましいものを合理的に選択することです。ローリスクローリターンばかりを選択しても、企業は成長できません。ここから見えてくるのは、日本企業が長年置かれた環境に適応してきた社員の思考パターンです。つまり、リスクを取るメリットよりもデメリットのほうが大きいという環境だったのです。

 

デフレ経済では、キャッシュがもっとも強い。リスクの高い投資よりもキャッシュを貯めこんだほうがいい。また、国内市場は成熟しているので、リスクに見合う投資案件がそもそもあまり見当たらない。銀行も不良債権で苦しんだため、リスクの高い案件には貸したがらない。こういった環境に適応した企業組織では、リスク回避に長けた人材が相対的に評価される。従って、必然的に社員のリスク選好はリスク回避型となっていく。これが日本経済の失われた20年を形づくってきた。

 

こういう組織で、創造的発想とか多様性重視の人材育成と旗を振ったところで、砂漠に水を撒くようなものです。リスクを適切にとらない経営陣のもとでは、リスクを取れる人材は育ちません。たとえば、ある企業では、変革人材を育成することを経営の最重要課題と認識し、大々的な人材育成プランを立案し実施しました。ところが、年度予算の達成が難しくなると、出張自粛のため地方勤務の受講者は不参加にしたり、またもともとスケジュールされていたある研修の実施を、次年度に延期したりもします。こうしたことは、社員に対して間違ったメッセージを発信しかねません。

 

BCGの御立氏は、こう書いていました。

「競争優位とは、同じ量のリスクをとって、競合企業よりも高いリターンを得ること。あるいは、同じリターンを得るためにとるリスクがより少なくて済むこと」

つまり、企業であっても個人であっても、リスクとリターンのトレードオフから、どうにかして少しでも好ましい方向に持っていくことを目指すことが、「経営」であり「仕事をする」ということなのだと思います。単にリスク回避をすることであれば誰でもできます。難しいトレードオフからの逸脱を目指すから、そこに人間の創造性や知恵が発揮されるのです。その結果、競争優位が生まれ持続的成長が可能になる。

 

たとえ失敗したとしても、リスクを取ることが評価される風土にならなければ、不確実性がますます高まっていくこれからの時代、企業も個人も生き残っていけないでしょう。さらに言えば、リスクを取った結果、失敗しても成功しても、そこから「学ぶ」ことができる、そんな企業や個人が勝者になることは間違いない。リスクを取らないことは、すなわち敗者への道なのです。

 

では、どうすればリスクをとる意識が芽生えるのか。ひとつは、「リスクを取らないことで失うこと」を明確に認識することです。リスク回避は、ゼロではなくマイナス。つまり機会損失の概念です。どうも我々日本人の思考には、機会損失の意識が欠落ししている。民族的な思考の癖なのかもしれません。こういうところから、一人ひとりの意識変革を促す、地道な作業が必要なのです。

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