小野寺講師のコラムにもあるように、コミュニケーションは大変難しいものです。研修の場面では、特にそう感じます。
企業研修講師は、そもそも受講者に伝えたいことをたくさん持っています。だからといって、それを単に語るだけでは、ほとんど伝わりません。下手をすると、「知識のひけらかし」や「自慢話の押しつけ」と受け取られかねません。
一般に講師と受講者の間には、大きな溝があります。
講師が伝えたいこと⇔受講者が伝えてほしいこと
講師が伝えたいこと⇔受講者が興味をもってくれること
講師が伝えたいこと⇔受講者に伝わること
さらには、受講者側にも溝があります。
受講者が知りたいこと⇔受講者の役に立つこと
受講者の役に立つこと⇔組織にとって役に立つこと
(以下もありえますが、これは入念な事前すり合わせでクリアできるはずです。
講師が伝えたいこと⇔企画側が伝えてほしいこと)
受講者たちも、それぞれに異なる事情や考えを持っています。こういうたくさんの溝がある中で、伝える側の講師はどうすればいいのでしょうか?考えれば考えるほど、難しい問題です。
そんなときは、軸を定めることです。人から何と言われようとも、これを伝えることが皆にとって絶対必要だと、時間はかかるかもしれないが、いつか絶対役立つはずだと。
しかし、これは言うほどやさしくはありません。上記の信念を実行するには、まず大きな溝があることを認めたうえで、相手方の関心や事情をできるだけ正しく認識し、それに最大限応える努力をする必要があります。こちらから橋を架けるのです。ただし、信念と明らかに対立する場合は、信念を優先すべきでしょう。言い方を変えれば、そこまで相手に歩み寄らなければ、信念は「一人よがりの思いこみ」になってしまいかねないのです。
最悪なのは、「自分はいいことを伝えている。伝わらないのは、相手に能力がないからだ(あるいはやる気がないからだ)」と、相手の責任にすることです。こうなってしまうと、講師の成長は止まり、周囲は不幸になります。
多くの場合講師は、受講者から「何でこんな奴に教えてもらわなくてはならないんだ。忙しいのに・・」という、マイナスの第一印象からスタートせねばならない立場にあります。(もちろん事前に、できるだけこのマイナスを小さくしてスタートできるよう企業の担当者とともに仕込むことは大切です)
だからこそ、あらゆる配慮や準備が重要であり、それができて初めてプロフェッショナルといえるのです。
こういったことは、必ずしも企業研修講師だけにいえることでもなさそうです。組織の中で他者と仕事をする人(ほとんど皆そうです)には、これから必須のスキルかもしれません。