ヒトの能力: 2010年10月アーカイブ

スティーブ・ジョブズの伝説のスピーチ(2005年スタンフォード大学卒業式)を、観直してみました。(以下は前半です)

 

彼は三点を述べているのですが、その最初のポイントは「点と点をつなぐ」とうことです。前回書いた「戦略的直観」にも結びつく内容だと閃いたからです。

 

大学をドロップアウトすることを決意したジョブズは、「書道(カリグラフィー)」のコースに魅了され、熱心に受講しました。それが、マックの美しいフォントにつながっているのです。ずっと先になりますが、アップルを追い出され不遇をかこった時代も、振り返ってみれば人生で最も創造的な仕事が出来たと述べています。

 

「点と点を最初から結ぶことは難しいのです。振り返ってみてはじめて、点と点を結んだ線が見えるのです。ですから、今は無関係に見える点でもいずれは自分の人生の中で大きな線で繋がれることを信じなくてはなりません。それには、自分の勘、運命、輪廻を信じ続けなくてはならないのです。」

 

戦略的直観も、蓄積されてきた長期記憶が選択され、結びつくことによって起きます。脳科学者のバリー・ゴードンは2003年の著作「知的記憶」でこう書いています。

 

「知的記憶とは、・・・点と点をつないで絵を描くようなものである。点とは構成要素あるいは思考であり、点と点をつなぐ線は、つながりもしくは関連性である。線と線は結びつき、より大きな断片を形成し、これらの断片は結合して、あるまとまった一つの思考を形成する。このようにして形成された思考は、視覚的イメージ、知識、アイデア、もしくは問題解決となりうる。各要素、そのつながり、そしてこれらを結合させる精神過程は一体的に作用するため、一つの認知的なまとまりであるかのように見える、これこそ、人がアイデアや概念をひらめくときに起きていることなのである。」

 

人間の脳の中で起きている直観が生まれるプロセスと、一人の人間の人生で起きているプロセスが、相似形のように私には思えます。いずれも意図的に点を選び、つなぐわけではありません。操作可能ではないのです。ジョブズが、若い頃から禅に傾倒していることもわかる気がします。

どんなに小さな組織であっても、リーダーに選ばれると世界が変わって見えるものです。収益責任、品質責任、育成責任など多くの責任を担うことになるからでしょうか?もちろんその要素も大きいですが、最近少し違った見方をするようになりました。

 リーダーとフォロワーの最大の違いは、その組織の「常識」を自らが形成するのか、それに従うかの違いだと思います。(ここでの「常識」とは、その組織内での「正しいこと」を指します。「メンタル・モデル」ともいえます)

 リーダーの行動や判断を基準にして、フォロワーは自らの常識を修正していきます。ミーティングにいつもリーダーが遅刻してくるとすれば、どんな理由があろうとも、その集団では「遅刻は許される」が常識になりますし、リーダーへの断りなしに他部門との連携を図ろうとしたことを咎められれば、「勝手に動くな。すべてリーダーを通すべし」が常識になります。フォロワーは、「自発的に動け!」というリーダーの明示的な言葉よりも、行動を常識の基準とするのです。そうして出来た常識が組織文化を形成し、結果として組織のパフォーマンスにも大きな影響を与えます。

 これはリーダーにとっては結構キツイ状況です(置かれている立場を認識していればですが)。多くの場合、本来の自分とは異なる行動を取る必要が出てくるからです。そのため、本当の自分とは異なる「仮面」をかぶることも必要になり、その仮面を通して世界を見ることを強いられます。だから世界の見え方も変わります。しかし、それがリーダーを成長させます。役職が人間を大きくするという言葉がありますが、それは仮面に実態を合わせていくプロセスのことなのだと思います。

 すぐれたリーダーは、形成すべき常識をいち早く理解し、それを促すような一貫した行動を取るようになります。進んで必要な仮面をかぶり、演じます。経営環境の変化が激しければ激しいほど、その能力が求められます。そういったリーダーの下で揉まれたフォロワーは、企業がこれから必要とする常識をつかみ取り、社内で重要な役割を担っていくことになるでしょう。

 

会社は社長の器以上には大きくならないといいますが、組織やチーム(当然フォロワーも)もそこのリーダーの器以上には大きくなりません。リーダーとはそれほど重い、しかしやりがいのある立場だと、あらためて認識する必要があると感じます。

 

 

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