ヒトの能力: 2009年12月アーカイブ

先日、今話題の「フリー!」を読みました。読みながら、いろいろ自分のビジネスのことを考えさせられる好著でした。優れた本は、常に読者への問いかけを含んでおり、新たな知識による刺激とリフレクション促進で、頭をフル回転させます。想像力を掻き立てられる、これが最高のエンタテイメントだと思います。

 

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略
小林弘人
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文芸春秋の今月号で、敬愛する塩野七生さんが、最近のユニクロ現象について書いています。それなりの品質の商品を安く購入するユニクロ減少は、ブランドの本場イタリアでも顕著だそうです。それについて、塩野さんは嘆いています。ユニクロ的商品が人気なことにではなく、若い人がホンモノの高級品に興味をなくしていることにです。

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もちろんホンモノは、値段が高くそうそう買えるわけではありません。しかし、ホンモノは想像する喜びを与えてくれるというのです。彼女いわく、高級バッグを買うにも数日熟考し、その間いろいろなことを考えます。買った後も、それをどの服とコーディネイトするか、どんな場面で使うかなど、部屋に置いたバッグを眺めながら、いろいろ想像するのだそうです。

 

想像力は筋肉と同じで、使わなければ落ちてしまう。だから、落とさないためにもホンモノを身近に置くことが大切なのだそうです。機能重視のユニクロ現象が、国民全体の想像力を低下させることを危惧しているのです。

 

彼女いわく、出版の世界でも同じことが起きているとのこと。彼女の著作は、膨大な時間と調査の手間をかけているので、高額にならざるを得ないそうです。だからこそ、高い本を買っていただく読者に報いるためにも、全エネルギーを注いで執筆している。知的想像力を刺激する作品を生みだすことは、並大抵のことではありません。

 

最近は、「しゃべってさえくれれば、700円の本を出せますよ」と誘う出版社もあるそうですが、絶対に気力があるうちはそんなことはしないと断言されております。そこに彼女の矜持を感じます。

 

 

アトム(物質)からビット(ネット上の情報)へ、世界の重心が大きくシフトする時代において、想像力がますます重要になってくることでしょう。しかし、ファッションや本だけでなく、あらゆる分野で、想像力を刺激するモノは減少している気がします。このギャップに、どう対処すべきなのでしょうか。

 

 

昨晩、アカデミーヒルズで「アダットシリーズ ハーバードケースメソッドで学ぶ経営戦略」を開講しました。この師走の忙しい時期にもかかわらず、27名の参加がありました。ありがたいことです。

 

テキサス大学のビジネススクールで教えている清水勝彦准教授に講師を担当していただきました。普段は英語でやっているので、多少日本語の単語が出てきづらいこともありましたが、流石に素晴らしいスピード感と的確なリードで、受講者の積極的な発言を引き出し、2時間半はあっという間に過ぎてしまいました。ほとんどの方は、今回が初めてのケース・メソッドで、しかも一回きりなので当初は不安だったのですが杞憂でした。

 

終了後ある受講者が、「面白かったが、なんかもやもや感がありすっきりしない」と感想を述べておられました。当然の感想だと思います。私もビジネススクールで初めてケースに触れた頃、同じような感想を持ちました。経営だから正解がないのはわかるけど、じゃあ何を学べばいいの?という感想だったと思います。

 

それまでの学校教育では、すべて正解があったのです。それがいきなり、最後まで正解がなく、頭の中が広がったまま終わってしまって、気持ち悪いのです。

 

でも、その気持ち悪さが大切なのです。もし、正解を教えてもらって、すっきりして帰れば、それで終わり。何も頭に残りません。すぐ忘れるでしょう。他に覚えるべきことはたくさんあるのですから。

 

もやもやしているから、ずっと考え続けるのです。考え続けること自体が学習であり、筋肉トレーニングと同じなのです。それに納得するのに、私も結構な時間がかかりました。

 

 

それから、ある受講者が、こんな感想をおしゃっていました。

 

「ケーススタディに対して、一般的に言われる『過去の事例を扱っても・・』とか『机上の空論では・・』という意見が当てはまらないということが、身をもって体験できたので大変有意義でした。」

 

一人でもこう言っていただけると、やった甲斐があったというものです。

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