長時間労働:なぜ家に早く帰れないのか

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ここのところ、「働き方改革」のスローガンのもとに、長時間労働がやり玉に挙げられています。電通の事件のインパクトが大きいのでしょう。法定時間を超える労働を、会社が指示してさせたのであれば明らかに犯罪です。しかし、社員が自主的に長時間労働をした場合も、会社が罰せられるべきなのでしょうか。

 

社員が自主的に長時間労働をするには、いくつかの理由が考えられます。

1)上司から与えられた成果を決められた期限までに出すには、長時間労働せざるを得ない

2)仕事に夢中になり、つい長時間労働してしまった

3)なんとなく早く帰りづらい雰囲気。早く帰るとやる気がないと思われてしまいそう。

4)早く帰ってもつまらないから会社にいる

 

1)のケースでは、会社や上司の配慮が必要です。まさにマネジメントの問題であり、会社の問題です。2)のケースでは、社員に好きにさせるべきだと私は考えます。社員が成長するとてもいい機会ですから。4)は論外。3)のケースが最も多いのではないでしょうか。この状態を解消するために、22時に全館消灯したりする。

 

では、なぜ本当は帰りたいのに帰れないのでしょうか。今どき、労働時間で部下のやる気を測り、それを評価に結び付ける管理職がいるとは思えません。

 

部下はこう考えます。「上司は私が早く帰るのを見て、私は仕事に対する意欲が低いから早く帰ると考えるに違いない。意欲がないから帰るのではないが、そうは考えないだろう。だったら、意欲がないと思われたくないから、まだ会社にいよう。先輩たちも遅くまで仕事を頑張っているのだし」

 

先輩たちもきっとこの部下と同じことを考えているに違いない。上司も同じ考えで帰らないかもしれません。つまり、誰も早く考えることと意欲がないことは同じではないとわかってながら、結果として全員が他の人はそう考えているに違いないと想像し皆帰らない。

 

このように相手の行動から「相手の意図」を推し量る性質が人間にはあるために起きる認知の間違いを、「帰属の基本的エラー」といいます。こういった認知の間違いで日本人の集団主義が形成されているとも言えそうです。

 

 

新入社員のAさんが、定時に真っ先に帰ったとします。五年目のBさんは羨ましいとは思うものの、Aさんは意欲がないとは思っていません。もしかしたら、明日は自分が定時に帰ろうと思うかもしれません。しかし、Bさんは皮肉交じりに他の社員に言います。「A君はいいよな。新人のうちくらいしか定時には帰れないのだから・・・。」

 

そう言っておかなければ、今度は他の人から自分が困ったやつだと思われてしまうのではと、漠然と怖れるからです。自分は早く帰ることはいいことだと思っているが、他の社員はそうは思っていないと思うから。

 

仮にBさんがAさんから、早く帰ってもいいかとの相談を受けたとします。Bさんは、こういうでしょう。「気にすることはないよ。俺だって課長に仕事より大事なことがありますって啖呵をきって、早く帰ったこともあるよ。」多分Bさん以外であっても同じように応えるでしょう。こうして、誰も望んでいない長時間労働の職場が出来上がります。

 

これは、日本の職場が閉鎖社会だから起きるのだと思います。閉鎖社会では、お互いに無意識に監視しあってしまうため「王様は裸だ」と誰も言えないのです。そう言えるのは、その社会に属していない「子供」だけです。そう考えれば、働き方改革でまずやらなければならないのは、従業員の多様性と流動性を高めることだと考えます。

 

では、なぜそもそも皆が「早く帰る=意欲がない」との前提を積極的ではないとはいえ共有しているのでしょうか。(これは勤勉さを貴ぶ性向とは異なると思います。)この集団的主観ともいえるものに対して、それに逆らうと損するので、とりあえずそれに従っておこうという判断するのでしょう。

 

かつて日本社会において、国をあげて自分を殺してまで労働することが促進された時代がありました。第二次世界大戦中です。いうまでもなく戦中は兵器を増産し戦争に勝つために、全国民が動員されたものです。そしてそこでは精神論が幅を利かす。(高度成長期もその傾向があったかもしれませんが、私はよくわかりません。戦中の記憶を前向きに活用したのかもしれません)いずれにしろ、戦中の記憶が今にまで影響しているとすれば、ちょっと恐ろしい気もします。

 

 我々日本人は、すぐに対症療法に走りがちです。現象が起きる原因、関係性を冷静に把握し、本質的解決策を実行する体質に、そろそろ変わりたいものです。

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このページは、ブログ管理者が2017年9月27日 10:14に書いたブログ記事です。

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