人材育成の場面でも「守破離」という言葉がしばしば出てきます。型を体に覚え込ませる「守」と、そこに独自色を加える「破」、そして自分だけの世界を築きあげる「離」です。いま、新ためてこの守破離の意味を再確認したほうがいいと思います。
「オンリーワン」や「個性重視」などの言葉に踊らされて、若手に型を刷り込む前に、「破」や「離」の機会を与えようとする傾向があるのではないでしょうか。そうすることが若手の「モチベーション」を高めるからと説明します。確かに先のことなどわからない若手のモチベーションは一時的には高まるでしょう。しかし、そんなモチベーションは長く続くものではありません。だとしたら、また次なるエサを与えるのでしょうか。
そういう風潮の背景には、数年前までの採用競争があったのかもしれませんが、一番大きいのは若手を育成する立場の上司や先輩が、そもそも自分たちが培ってきた型に自信を持てなくなっているからではないでしょうか。
確かに自分たちが育てられた頃と、環境は大きく変わっていることでしょう。しかし、変わらないものもあるはずです。その峻別がうまくできないのかもしれません。長く伝えられてきた型には、必ず継続されてきただけの理由があります。その本質を理解しないまま、表面的な形だけを主張しても部下には伝わりません。
逆に本質となる核さえ押さえていれば、多少形がゆがんでいても問題ありません。環境に合わせるだけの柔軟さが必要なのです。そして、さらにその上で新しい時代のエッセンスをくわえていけばいいのです。
300年以上の歴史を持つ老舗は、決して過去の形を継続することに腐心しているわけではありません。かえって、時代に合わせて柔軟に変身を遂げています。しかし、型すなわち核は徹底的に守り続けています。例えば、京都という都市そのものがそうです。
本質は何なのかを追求しつづける愚直さや、自信を持って型を伝える姿勢が、今あらためて重要性を増してきている気がします。
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