学びの軌跡: 2010年8月アーカイブ

今から15年ほど前、ハーバード大学のMBA入学を控えていた頃、あるイギリス人OBから言われたことがあります。

 

ビジネススクールで勉強したことは、卒業後半年で全部忘れる。

 

幸か不幸か、MBA修了後、この言葉は現実となりました。振り返ってみると、中・高・大を通して、記憶した「知識」の多くは、何事もなかったように忘れ去っています。それでも、それぞれの場所で得た「経験」が無駄になっているとは思いません。

 

そもそも「学ぶ」とはどういうことでしょうか。

 

英語には「スタディ(study)」と「ラーン(learn)」があります。ざっと言えば、スタディは「知識」の獲得で、ラーンは知識も含めた体系的な「技能」の習得です。たとえば英語を学ぶ時。「知識獲得」によって、○×式や択一式の試験であれば結果を出すことができますが、「技能習得」がなければ実践で使うことはできません。

 

私は20歳の頃、1年間米国に交換留学をしました。キャンパスの寮ではひとつ屋根の下、50人の米国人学生と共同生活です。ルームメートは3人、寝室には2段ベッドが所狭しと並んでいます。車の運転を覚えたのも、初めてジムに行ったのも、こういう「空気」の中の出来事でした。

 

10年後、ハーバード大学のMBAプログラムで2年間、80人のクラスメートと討論を行いました。米国人であっても気後れすると言われる「白熱教室」(NHKで放送されましたね)さながらの授業。それがそれほど苦にならなかったのは、20歳の頃に吸った「空気」がある種の免疫になっていたからだと思います。

 

自分の「英語学習」の軌跡を考えると、教科書も読んだし、参考書も読んだ。テープも聴いたし、受験勉強もした。ここまでは誰でもがすること。ろくに英語もしゃべれないのに交換留学に応募して、「アニマルハウス」と揶揄される学生寮に押しかけ、「アメリカ」を体験した。これらは自分で選んでやったこと。

 

何かを習得するために、欠かせないものが3つあります。必要性と自主性と効率性。たとえば英語が必要になれば、好まなくともやらされます。良質なフレームワークを活用すれば効率が手に入ります。しかし、自主性がなければ英語も何も身につきません。

 

学ぶということは、知識の獲得よりも、技能の習得よりもまず、スポンジのように全身で新しい「空気」を感じ取ることから始まるのではないでしょうか。そしてその一歩は常に、自分の意思から始まります。

 

 

 

 

Ac-aono2-p.jpg青野 仲達 (あおの・ちゅうたつ)

 

ビジネス・ブレークスルー大学グローバル経営学科教授。ブルーフィールド英語習得研究所主宰。早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、アメリカン・エキスプレスを経て、ハーバード大学経営大学院(Harvard Business School)にてMBAを取得。イングリッシュタウンの創設、マイクロソフトの新規事業立ち上げに携わり、2004年に株式会社GABAGabaマンツーマン英会話)を設立。代表取締役社長として、2006年に東証マザーズ上場。現在は、これまでのキャリアを生かして世界に通用する「英語のフレームワーク」を開発、大学の授業や企業の研修を通じて、実践的な英語習得法を指導している。著書に『MBA式英語習得法』(PHP研究所)がある。

 

 

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