学びの軌跡: 2009年12月アーカイブ

私は、30年間のグローバル・ビジネス・キャリアを、27年間は総合商社で、3年間はアメリカ企業で過ごしました。振り返ってみますと、決して平坦な道ではなかったと思います。

 

 最初に駐在したのが、マレーシアのクアラルンプール支店の駐在員としてで、そこでは、新設間もないパーム油先物定期市場の崩壊という事態に遭遇しました。結果として、現物契約の不履行が続出、あっという間に不良債権が積み重なってゆきました。債権回収のために、まさに夜討ち朝駆けのような日々を送った訳ですが、債権者会議を開き、債務者を説得し、一部ながらも債権を回収するという、辛いながらも貴重な体験をしました。わずかの手違いをたてに契約を不履行し、転売益を手にしようとする不埒な輩とも対峙しました。ビジネス上許される行動規範を逸脱してまでも、利益を追求しようとする一部の人間の醜さも目の当たりにしました。しかし一方で、どんなに苦しくても、最後まで誠心誠意なすべきことをなすことの重要性も学ぶことができました。

 

 アメリカでは、主要取扱商品だった東南アジアのパーム油が、競合するアメリカ大豆油協会から理不尽な攻撃を受け、壊滅的な打撃を受けました。そうした危機に遭遇した際いかに行動するかについて学びました。また、不振にあえぐ自社再建策の一環としてリストラを敢行しましたが、解雇した社員から差別で訴えられました。全くいわれのない訴えでしたが、自分サイドの人事労務管理が不十分であったことも大いに反省させられました。また、訪問したある大企業が、その後歴史を揺るがすような大事件に巻き込まれる様を目の当たりにしました。この事件は、その後本になり、今年(2009年)の秋、マット・デーモン主演の映画にもなっています。( 「インフォーマント!」日本では12月5日より公開)

 

 インドでは、高熱と下痢に苦しみながら債務減額交渉をし、企業再建にかかわりました。どんなに苦しい状況にあっても、未来を見据え、今解決すべきことに全力を挙げることの大切を学びました。そしてビジョンを提示し、戦略を実行する変革のリーダーシップの重要さを認識しました。

 

 こうして振り返ってみると、私のグローバル・ビジネスとのかかわりは、まさに修羅場体験の連続でした。苦しい日々、眠れない日々が続き、気が付くと会社の近くの川に向かって歩いていてはっと思いとどまったことなどもありましたが、そうした修羅場体験から学んだことは計り知れません。私は、こうした個人の体験をベースに、二度NHK教育テレビ番組の制作に関わり、講師を勤め、書籍も書きました。しかし、修羅場体験を自ら直接皆さんにお伝えし、学ぶべきエッセンスを考えていただく手段としてケースこそが優れていると考え、ケースを多く書きました。今は、そうしたケースを使いながら、私のセミナーに参加していただく方が、次世代を担う素晴らしいグローバル・リーダーになるためのお手伝いをさせていただいています。

 

 

 

Ac-fujii_m-p2.jpg藤井  正嗣

早稲田大学理工学術院教授。米国カリフォルニア大学(バークレー)数学科および同大学院修士課程卒業。ハーバード・ビジネス・スクールAMP(上級マネジメントプログラム)修了。大手総合商社勤務、クアラルンプール支店食料マネージャー、アメリカ食料子会社会長兼社長、人事部国際人材開発室長、人事子会社取締役人材開発事業部長、海外冷凍物流合弁会社Executive Director 等を歴任。 外資系インターネット教育会社日本代表を経て、現在 事務所を立ち上げ、 グローバルマネジメント・コミュニケーション等の人材育成企画や、社会人向けプログラム講師、執筆等、多岐に亘る分野で活躍中。NHK教育テレビ講師としても、ビジネス交渉や MBAをテーマにした番組を担当。

主な著書には、『英語で学ぶMBAベーシックス』(NHK出版)、『英語で学ぶMBAの授業』(中経出版)、『ビジネス現場の交渉術』(アルク)、『戦略的英語プレゼンテーション』(DHC,『仕事現場の英会話』(DHC)等多数、 監訳書には、『柔道ストラテジー』(NHK出版)等がある。

 

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