人材・組織開発の現場から: 2010年10月アーカイブ

最近の日本企業は海外にやられっぱなし、という話題を耳にすることが多くなりました。躍進する海外企業を横目に、日本企業の経営者の誰もが、わが社もイノベーションをもっと起こせないものかと考えていることでしょう。


話は少しそれますが、企業研修や大学の講義でケーススタディなどをやったとき、「それで正解は何なのですか?」と聞かれることがよくあります。正解などありませんよというと、不満足な表情をする人も少なくありません。経営問題に正解はないでしょうと言うんですが、どうも気持ちが悪いようです。私は、これは学校教育に一因があるのではないかと考えています。子供は「?」で学校に入り、「.」で卒業していく、という言葉があります。たとえば、3+4=?という問題は出しても、7=?という問題は、まずないでしょう。アインシュタインは、学生に2週連続して同じテストを与えました。生徒がこれは先週と同じ問題ですと言ったら、アインシュタインはこう答えたそうです。「その通り、しかし今回は答えが違う!」。


このように、多くの教育は、いかに効率的に正解を導くかという能力を鍛えることに重点を置いています。もちろんこれも大切な能力ですが、情報化社会で日々新しいアイデアやビジネスが創造される現代においては、すでにわかっている正解を導くだけでは不十分です。

 

ギルフォードは、知能のモデルを研究する中で、ただひとつの正解を導くタイプの「収束的思考」と、多くの解決策を発想するタイプの「発散的思考」を区別しました。その上で、発散的思考力が創造性に関連する力であると主張しました。発散的思考は、慣れていない人にとっては、時に大変苦痛を伴うものです。その過程では、問題を解決するための情報は不十分であり、問題が定義されないときさえあるからです。一般に、あいまいな状況は不安を招き、人はそれを避けようとします。しかし発散的思考は、そういった状況でも、分かっている範囲で仮説をたて、推理し、コミュニケーションできる能力と勇気を必要とします。

 

発散的思考を組織として醸成するためには、経営者や管理職の理解も必要です。以前、ある製造業の研究開発部門の人たち向けに製品戦略の研修をしたとき、冒頭で担当役員の方が、我々はもっと創造的になりイノベーションを創出しなくてはならない、と挨拶しました。研修中にアイデア出しの課題を与えたのですが、ここで担当の管理職の方がこう言ったのです。「先生、あまり酔狂なアイデアを出してもらったら、こっちがびっくりしてしまうので、ほどほどにしといてくださいね」。これは、日本だけではないようで、クリステンセンらの著書「イノベーションの解」で次のような一節があります。

「アイデアを選別し、資金を勝ち取れる計画にパッケージするプロセスは、アイデアを、過去に承認を得て成功したものに似せるようになる」

さらに、現場から出たアイデアが事業に形成される過程で、中間管理職がどんどんそれを無難なものにしていくと言っています。

 

Google の"20%ルール"や、3Mの"15%ルール"が、イノベーションを起こす組織としてしばしば引き合いに出されますが、これを単にまねてもそのとおりにはなりません。創造的になるための発散的思考の育成と、それを受容するための経営者や管理者の理解が必要なのです。イノベーションが求められる今こそ、発散的思考の醸成に注目するときなのではないでしょうか?

 



Ac-kitahara2-p.jpg北原 康富(きたはら やすとみ)

インテグラート・リサーチ株式会社代表取締役、早稲田大学商学研究科非常勤講師。

東京理科大学理学部卒業、早稲田大学後期博士課程位取得満期退学、博士(学術)。

日米のコンピュータメーカにてシステムエンジニア及びマネジメントコンサルタントとして活動後、日本インテグラート株式会社を設立。創業以来、新規事業や開発プロジェクトに対する戦略計画や意思決定に取組み、これらを支援するソフトウェアおよび方法論の開発を行う。プロジェクトの事業価値評価、事業ポートフォリオマネジメント、戦略意思決定、イノベーション創出の分野で、教育およびコンサルティング活動を行っている。

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