ブログ管理者: 2010年4月アーカイブ

 

日本企業を取り巻く経済・ビジネス環境や雇用システムの問題を考えると、日本企業が競争の中で生き残り続けるためには、世界を視野に入れた経営を実行していくことが重要です。しかし、多くの日本企業において、「人と組織のグローバル化」は遅々として進んでいません。その多くの原因は、理想の組織像や欧米企業の組織や人材イメージの議論に終始し、それを頭で理解することに時間を費やし過ぎていることだと思います。それよりも、日本企業はまず、足もとの自社のグローバル組織の現状と特性を直視し正しく認識することが必須です。その上で、次にいきなり10年先ではなく、3年という"視界に入る"時間軸の中で実現したい「変化」を明確にし、それに向けて問題解決のための実効性高い行動を起こすことが重要になるのです。

 

 

もちろん日本企業の中にも、人と組織のグローバル化が進んでいる企業もあります。そういった企業(例:スミダコーポレーション)では、、そもそもグループ全体の社員に占める日本人の割合が少ない、あるいは、日本人の絶対数が少なく、海外拠点における日本人駐在員の数も自ずと少なくなります。その代わり、各地の拠点ではトップや幹部層のほとんどの役職に優秀な現地人材が配置されます。このような会社では、いわゆる「日本本社」という存在があまりクローズアップされることはなく、実際のビジネスや組織機能を軸に最適な組織構造が構築され、最適な人材が配置されることになります。さらに、全拠点を視野に入れた共通の企業文化を定義し浸透させ、共通の考え方で人材育成を行い、国籍を問わず全拠点の経営幹部が納得するガバナンス体制が整備されることになります。しかし、残念ながら、このような日本企業の絶対数はとても少ないのが実状です。

 

 

日本企業の大多数は、グローバル経営上の組織図を机の上に広げてみると、本社も国内外の関連会社も上層部の役職はほとんど「日本人」で占められているのが現状です。しかも、英語圏以外の新興国の拠点では社内の共通言語が「日本語」になっている会社が大変多いのも事実です。3年という時間軸の中で、現地人材の登用が劇的に進み、社内の公用語が英語に変わってしまうという荒治療ができる会社は、経営者の英断と覚悟が伴わない限りごくわずかと推察できます。このような状況の下で「人と組織のグローバル化」に向けて問題解決の方法を検討する時、一足飛びに欧米式を「吸収」することは現実的ではありません。限られた短い時間軸の中で着実に「変化」を起こしていかなければいけません。「頭での理解」に変化を起こすことだけで立ち止まるのではなく、「心」や「実際の行動」に変化を起こさなければ、時間の無駄なのです。

 

 

では、具体的にはどうしたらいいか。今、最優先しなければいけない取り組み課題は、本社を起点に現地人材とビジネスをする日本人、及び海外拠点に駐在して現地人材をマネージする日本人を対象に、まずは、現状の「日本人」「日本語」主体の組織構造が本来の機能を取り戻すことを目的とした実効性の高い研修を実施し、その後、現場で実変化が起きるよう継続的に仕掛けを施してフォローアップしていくことです。その中ではじめて、グローバル仕様の日本人の底上げと、今後の日本人リーダーの発掘、選別が計画的に実現でき、それが3年後に取り組み始める次の打ち手に繋がっていくのです。さもなければ、「現地人材が育たない。給料を理由にすぐ辞める。だから、やはり日本人が必要なのだ。」という話が、日本企業の海外拠点で神話のごとく永遠に語り継がれることになるのです。

 

 

 

Ac-shinozaki-p.jpg篠崎 正芳(しのざき まさよし)

株式会社J&G HRアドバイザリー 代表取締役社長

1963年生。(株)富士銀行、外務省在外公館派遣員(在豪州日本大使館)、全日本空輸(株)、日本能率協会コンサルティング(株)、マーサー・ヒューマン・リソースコンサルティング(株)(現マーサージャパン(株))取締役兼グローバル人事戦略コンサルティング代表などを経て、2007年より現職。

人事組織マネジメントのグローバル化・現地化を現場重視で支援する数少ない日本人グローバルコンサルタント。海外拠点における人事制度構築(7 Days Program)、企業文化浸透活動、海外赴任前後研修(実践的多文化マネジメントトレーニング)をはじめとする各種トレーニング、 アセスメント&コーチングなどを中心に活躍中。

日本国内および海外でのセミナー、講演、寄稿多数。 現在、SMBCコンサルティング発行「中国ビジネスクラブ」でコラムを連載中。

著作に『世界で成功するビジネスセンス』(単著、日本経済新聞出版社/2009年)、『中国進出企業の人材活用と人事戦略』(共著、JETRO/2005)、『実践Q&A 戦略人材マネジメント』 (共著、東洋経済/2000年)、『取締役イノベーション』」(共著、東洋経済/1999年)。米国ICF(International Coach Federation)認定コーチ。

 

 

弊社は、製品開発・新規事業や設備投資などの事業投資の評価に関するコンサルティング・システム導入・人材開発をしています。「そんなことできるのか」「数字の遊びではないか」「本当に役に立つのか」と言われながらも、もう17年続けてきました。

 

投資評価というと、NPV(純現在価値)などの財務的な評価が一般的と言われます。もちろん、NPVは今でもよく使われているのですが、近年少しずつその使われ方も変わってきているように感じます。本コラムでは、実際にNPVを使って投資評価に取り組む企業に見られる、3つの新しい動向をご紹介します。

 

 

1.個別ではなく全体(ポートフォリオ)へ

 個別の投資案件は精査されていても、事業全体でどうなるか、というのは意外と分析されていません。個別の投資案件については今から10年程度先まで考えられていても、多くの企業では、事業全体のことは中期経営計画(3年~5年)の先はよくわからない状況にあるのです。そこでニーズが高まっているのは、全体を俯瞰するポートフォリオ分析です。ポートフォリオ分析で興味深いのは、NPVよりも、売上がはるかに重視される傾向があることです。実際に経営者と議論をすると、NPVを軽視するわけではないが、企業の安定的な成長を確認するには、中長期的な売上予測を重視する傾向が見られます。

 

2.計算結果ではなく入力データへ

 NPVのような数値は、もっともらしく見えるものです。しかし、それも所詮誰かが想定した数字を積上げて計算されたものに過ぎないことが、多くの人に理解されるようになってきました。そのため、なぜこの数値になったのか、という議論を多く見かけるようになりました。以前は、エクセルのシートでビッシリとNPV計算と分析が行われていると、その時点で仕事が終わったかのようなことがあったものですが、計算や分析が議論のスタートに位置づけられるようになってきています。計算結果よりも入力データを議論すべき、というのは当たり前のように聞こえるかもしれませんが、そう簡単ではありません。組織的にそれを実行するためには、その事業に関する深い理解と財務に関する基本的な知識を要します。そのためには、人材の育成とSOP(標準業務手順書)の整備等が欠かせないのです。

 

3.静的分析ではなく動的分析(シミュレーション)へ

 予測が当たらない、というのは投資評価業務につきものの悩みです。評価をしている担当者も、随分と悩みながら数字を作っています。その際に、外れるとしたらどの程度なのか、といったリスクを示すために、シミュレーションが少しずつ活用されるようになってきています。What-If分析や、感度分析・リスク分析といった、いくつもの結果を想定したシミュレーションが新たな武器となりつつあるようです。

 

 

以上のような動向には、組織の各所に散らばっている情報や知見を集約しようという狙いがあるように思います。つまり、投資評価業務のあり方が、以前は数字作りが主眼であったことに対して、数字を媒体とした知恵集めが主眼になってきている、そんな新しい潮流を感じます。言いかえるならば、投資評価業務においては、数字を使いこなすことが普通になってきたと言えるでしょう。

 

 

 

 

Ac-ogawa-p.jpg小川 康(おがわ やすし)

インテグラート株式会社 代表取締役社長

 

東京大学工学部都市工学科卒、ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA(起業学並びにファイナンス専攻)、研究・技術計画学会会員、日本価値創造ERM学会会員、日本リアルオプション学会会員。

 

東京海上火災保険、米国留学、留学中の現地ベンチャー支援センター(SBDC)、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンを経て現職。新規事業立案支援、事業計画のバリュエーション手法、ポートフォリオマネジメント手法の研究開発・コンサルティングに従事。製薬会社の医薬品開発プロジェクト事業性評価及び事業性評価・ポートフォリオ評価業務導入支援、自動車メーカーの中古車事業戦略策定支援、大手総合商社の海外企業向け投資案件支援、など、新規事業・製品開発のコンサルティング経験を持つ。

主な著作・研究に、「ベンチャー企業事業計画の策定・分析手法」(共著、ベンチャーエンタープライズセンター、1999年2月)、「戦略経営コンセプトブック」(共著、東洋経済新報社、2002年12月)、「ハイリスクR&D投資の意思決定力を高めよ」(共著、早稲田ビジネススクールレビュー、2006年7月)、「オープン・ポートフォリオに基づく国内製薬企業のR&Dマネジメント」(共同、研究・技術計画学会第21回年次学術大会)、「組織の意思決定力を高める10のテクニック」 (共著、日経BP社Itproウェブサイト連載、2008年6月~10月)、「不確実性分析実践講座」(共著、ファーストプレス、2009年12月)等がある。