ブログ管理者: 2010年1月アーカイブ

企業経営リーダーの「覚悟の技術」:管理能力から学習能力へ

 

 

Company」から決別する「会社」の進化

 世界的な金融不安に端を発した今回の景気低迷は、グローバル資本主義を前向きに見直す機運に繋がりました。これと機を一にして、日本社会においては、この資本主義体制の構成単位である企業とその経営について、根本的なパラダイムシフトが起りつつあります。

 

 それは、「会社」が、「Company」との根本的な違いを明確に認識し、95年のビッグバン以来の「会社」と「Company」との不明瞭なハイブリッド状態から脱けだす、あるいは、「会社」が「Company」から決別して新たな進化を目指す意識と行動です。これは、「Company」が個人の自由と財産権を最優先する社会において投資家資産を増大させる「マシーン」であるのに対して、「会社」は社会全体の調和を追求する社会において社会的価値を創出する「人間組織」である、という区別を改めて再認識することから始まっています。

 

 またこれは、20世紀終盤に急速に注目を集めたROE(総資本利益率)に対する、最近の認識変化にも顕著に現れています。95年のビッグバン以来、「Company」の存在意義を測る指標である「ROE」で「会社」の存在意義も測ろうとする錯覚が当然のこととして受け入れられてしまっています。これに対して、特にリーマンショック以降、ROEは「会社」においても依然としてその健全性を測る最重要な指標ではあり続けるものの、個人にとって最重要な健康指標であるγGTP(肝臓機能指標)や体温の維持が人生目的などではないのと同様に、ROEは「会社」の存在意義などではない、という認識変化です。

 

短期的合理性で評価できない長期投資への再傾斜 

 このような経営のパラダイムシフトは、多くの日本企業が、証券アナリストや科学的合理性では計算できない、長期研究開発投資へ傾斜しつつあることにも現れています。ただし、これらの変化は、高度成長期の日本的経営への回帰ではなく経営進化です。今では、高度成長期という時代がその繁栄の一方で、惰性的な企業膨張を招いた時代でもあったことが明らかになりつつあります。現在の変化は、Company型経営から透明性の重要性を学んだ上で、規模を追求する「膨張」経営から決別し、社会的な存在価値を追求する「進化」経営を目指す趨勢ともいえます。

 

覚悟の技術=21世紀の会社経営リーダーの要件 

 したがって、21世紀の会社経営リーダーの要件とは、定量分析で合理的に説明できない、特に短期業績志向の科学的合理性感覚では評価も承認もされない長期研究開発投資を、その未来への貢献を信じ、論理的、定量的なデータの十分な支援がなくとも他の人々を巻き込んで推進できる、それだけの「覚悟」を実践する行動とも要約できます。計算できる範囲での投資効果を追求するのではなく、計算を超えた未来貢献を「覚悟」する行動です。

 

管理能力から学習能力へ

 そして、この覚悟の実践には、「自己の既存の知識と経験で外部環境をコントロールし続ける」管理能力よりも、「外部環境の新たな状況から学び続けることで自己を成長させる」学習能力が重要な役割を果たします。すなわち、覚悟の技術とは、会社の存在意義を追求する永遠の目標に向かって、「次々と直面する新たな状況から学び、進化する意志」、決して途切れることのない学習行動へのコミットメントともいえます。

 

 今、企業研修の現場では、このような「学ぶことを学ぶ」能力が、21世紀の企業経営能力の基盤要件として本格的に認識されつつあります。「どのような状況に直面しても学び進化し続ける」覚悟の技術が、未来社会に貢献する長期ビジョンを構築し、人々を共鳴させ、人々を成長させ、企業経営を進化させ始めています。さらに、この企業進化にともなって、それらの企業が構成する資本主義社会も進化し始めている。これは2010年新春の初夢などではないようです。

 

 

 

 

Ac-onake-p.jpg大中忠夫(おおなか・ただお)

名古屋商科大学大学院教授

 

東京大学工学部原子力工学科卒(1975)、カーネギーメロン大学経営大学院修士(1983)。三菱商事、GE横河メディカルシステム情報システム部長、プライスウォーターハウス・クーパース・コンサルティングLLP日本法人ディレクター、ヒューイット・アソシエイツ日本法人代表取締役を経てグローバル・マネジメント・ネットワークス(株)を設立。20094名古屋商科大学大学院教授就任主な著書に『戦略リーダーの思考技術』(ダイヤモンド社2000年:W・ドルフィネ共著)、『MBAリーダーシップ』(ダイヤモンド社2006年:執筆監修)、『リーダーシップ強化ノート』(東洋経済新報社2007年)、主な論文に、「エンパワーメント・リーダーシップの技法」(ダイヤモンド・ハーバードビジネス1997 June-July)、「初任管理職をいかに育てるか‐求められる育成プログラムと環境整備のポイント」(労政時報2008年 第3722号)など。