ブログ管理者: 2009年11月アーカイブ

「最新の経営スキルより、基本を使いこなす力を」

 

 

MBAなど経営の授業とは「最新の経営スキルを教える」ものだと考えていらっしゃる方も多いかもしれません。最近話す機会があったノースウェスタン大学(Kellogg)の先生とも「学生は、ケースは新しいほど良いと思っている」ことで意見が一致しました。

 

「最新の経営スキル」の多くは、ベストセラーと同じように、毎年変わり、一時期はもてはやされるものの、いつのまにか忘れ去られていくのが実態です。一方で、「基本」は、人間、あるいは組織というものの本質が変わらない限り、普遍性を持ちます。「古典」が大切にされるのはそういうことでしょう。

 

『戦略の原点』(日経BP2007年)にも書きましたが、私はアメリカでのクラスを、いつも次のように始めます

 

 

私:2x3は? 

 

生徒:6!

 

私:5x7は? 

 

生徒:35!

 

私:12987x76452は?

 

生徒: ...... (稀に、あてずっぽうで答える生徒も)

 

私:会社を経営するのは簡単ではない。現在のように、競争や技術が毎日のように変わればなおさらだ。次々と毎日出てくる問題や機会に対応しなくてはならない。こうした環境で、一番大事な力は「答えを覚える」ことではないと思う。

 

答えを覚えようとするのは、12987x76452とか37659x77621とかをすべて覚えようとするようなものだ。もちろん、出来るのであればしたらいいと思うが、普通の人には難しい。

 

このクラスで君たちに学んでほしいのは、そういうことではない。掛け算は、81のパターンをきちんとマスターし、それをどのように使ったらよいかを知っていれば、どんなに難しい問題でも、時間はかかるかもしれないが解ける。どんなに複雑そうな問題でも、問題自体が複雑なわけではない。ほとんどの場合は、基本的な問題が複雑に絡み合っているだけだ。

 

算数と同じように、経営戦略でも2x3、5x7のような「基本」をマスターし、それを応用する力をつければ、今後聞いたこともないような問題でも取り組むことは出来るはずだ。「経営の九九」をマスターしそれを応用する訓練をすること、それがこのクラスで君たちに学んでほしいことだ。

 

 

ケース・メソッドの本質とは、「たくさんすることで、あらゆる問題をこなせるようになるシミュレーション」ではなく、「基本を確認し、その応用力を鍛える」ことにあるのだと思います。薄く広い知識をつけることではなく、自分が正しいと思った見方、考え方に反論を受けたり、問題点を指摘されたりしながら、基本を使いこなす力を養うのです。

 

大輪の花を咲かせることは大切ですが、根がしっかりしていなければ、花の重みで倒れてしまうこともあります。組織、そして経営においても、目もくらむような横文字以上に、根幹となる「基本」が大切であることは、分かっていても時々忘れてしまいます。よいケースは、自分、そして自社の根幹を見直すための視点と機会とを与えてくれるのではないでしょうか。

 

 

 

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清水勝彦 (しみず・かつひこ)
テキサス大学サンアントニオ校 Department of Managementアソシエイトプロフェッサー(テニュア取得)

ダートマス大学エイモス・タックスクール経営学修士(MBA)テキサスA&M大学経営学博士(Ph.D.)
8 年間の戦略コンサルタント(コーポレイトディレクション、プリンシパル)経験をへてアカデミアへ。テキサス大学では学部、MBA、そして博士課程学生に経営戦略のクラスを担当する。

日本語著書に「戦略の原点」(日経BP)、「その前提が間違いです。」(講談社)、「なぜ新しい戦略はいつも行き詰まるのか」(東洋経済新報社)、「経営意思決定の原点」(日経BP)、「失敗から学んだつもりの経営」(講談社)、「経営の神は細部に宿る」(PHP)、翻訳書に「事実に基づいた経営」(東洋経済新報社)がある。


フロンティア突破の経営力 フロンティア突破の経営力

 

 

本書は、「実戦的な経営戦略書」です。マッキンゼー時代を含め19年間にわたる経営コンサルティングと経営人材開発で、のべ約100社、数百プロジェクト、数千名の経営幹部諸氏とともに「現実の壁」に立ち向かった経験から抽出したエッセンスを表現した作品です。夢と勇気と現場と戦略を融合した世界を表現いたしました。<?xml:namespace prefix = o />

 

本書ではまず、「N=3(少ない情報量)で知る!」や、「30分、3時間、3日間」といったスピード重視のマーケティングや事業の戦略的判断の可能性を例証していきます。ポイントは、臨戦感覚です。

 

たとえば第23章では、わずかN=22のサンプル調査に基づき、サントリービール黒字化の背景にある「市場の立体感」と「マーケティング策の成否のメカニズム」を示していきます。各企業が、「異なる戦略空間」を見ていることや、「古い作戦思想」の影響を受け、戦略的判断の修正に3年から10年以上もかかっているという事実(ビール業界の場合)には、きっと震撼させられることでしょう。類似のことが、どの業界でも起きています。

 

 

本書を経営者の視点でお読みいただくと、スピーディかつシステマティックな経営の采配のための着眼点や、経営人材開発の鍵を読み解かれるかもしれません。

 

さらに、個別事例の検討を通じて、アライアンス/M&A戦略検討の必要性にも気づかれるかもしれません。実際、それらの検討と立案実施が弱い片肺飛行の経営には限界が見えがちです。事業の現実面での経営力が弱いままM&Aにフォーカスする経営も、また挫折しがちであることが示唆されます。これらはいずれも、「得意技の世界だけでは壁が突破できない」という本書の中心テーマの例証と捉えていただくことができるでしょう。

 

 

本書でお伝えしたかったことは、次の一点にあります。

 

「現場現実を解明していくと、打つべき戦略がしばしば想定外の世界、違う次元にあることが判明する。そのとき人も組織も動けなくなる。そのような「壁」を突破するためには、...

 

 本書の根底に流れるメッセージは、「未来創造」への意欲と「勇気」です。人がより幸せで創造的に生きるためのきっかけに、本書がなればと願っています。

 

 

 

Ac-ogawamasa-a.jpg小川 政信(おがわ まさのぶ)

インスパーク株式会社 代表取締役

 

1959年生まれ、東大卒、ハーバードMBA
マッキンゼーでは日米欧亜のクライアント企業とともに、新規事業開発、マーケティング、経営判断・経営ターンアラウンド、R&Dマネジメント、M&A・アライアンス等を経験
1996年独立。 経営の戦略的支援と経営人材の開発を最高の費用対効果で提供するため、インスパーク株式会社を設立。 タスクフォースマネジメントを通しての実戦環境下での経営人材開発、経営力強化などに注力。スピーディで的確なプロジェクトマネジメント力と、人と組織が内側から気づくことを重視する。ミッションを人と組織の生命力を引き出すことと捉え、経営人材の開発と、経営プロジェクト・マネジメントを行う


【著書】
『未来を創る経営者』(生産性出版、グローバル経営者20名の共著、2009年)
『決定版「ベンチャー起業」実戦教本』(プレジデント社、小川政信、大前研一共著、2006年)『アントレプレナー育成講座』(プレジデント社、小川政信、大前研一共著、2003年)など